トランプ米大統領は26日、米中西部インディアナポリスで開かれた銃規制反対の有力圧力団体「全米ライフル協会」(NRA)の会合で演説し、通常兵器の国際取引を包括的に規制する武器貿易条約(ATT)の署名を撤回する方針を表明した。これにより米国はATTに加わらないことになる。
トランプ氏は銃所持の権利擁護を署名撤回の理由に挙げたが、来年の大統領選をにらんで高い集票力を誇るNRAの支持固めを図ったのは明白だ。トランプ政権はイラン核合意や中距離核戦力(INF)全廃条約など国際合意から一方的な離脱を続けてきた。今回も、国際的な約束より国内事情を優先する「内向き姿勢」の表れと言える。
トランプ氏は演説で「私の政権下では、米国の主権は誰に対しても屈しない。外国の官僚が(銃所持の権利を認めた)合衆国憲法修正第2条を踏みにじることを我々は絶対に許さない」と訴え、オバマ前政権が2013年に行った条約の署名は無効だと宣言した。
ATTは銃を始め、装甲車両、戦闘機、ミサイルなどの通常兵器を対象にし、不正な取引を防止するために輸出入を規制する条約。06年から日本や英国の主導で国連で交渉が始まり、13年の国連総会で採択された。これまでに約100カ国が批准、締結した。だが、大口の武器輸出国である米国、ロシア、中国は批准しておらず、中ロは署名もしていない。
特に武器輸出世界1位の米国がATTを締結することは、同条約の実効性を確保する上で極めて重要だ。オバマ前政権は条約に署名したが、NRAは「銃規制につながる」と猛反発。連邦議会上院(100人)では条約の批准に必要な3分の2の賛成を得られる見通しは立っていない。
トランプ氏は就任以来、地球温暖化対策の国際枠組みである「パリ協定」を始め、イラン核合意、INF全廃条約など国際的な合意から一方的な離脱を続けている。トランプ氏のATT署名撤回宣言を受けて、米国の外交専門家からは「国際秩序を無視する行為だ」との批判が出ている。(ワシントン=園田耕司、渡辺丘)