中国が南太平洋のサモアで、新しい港の建設支援を検討している。安全保障上の戦略的な思惑もあるとみて、米国やオーストラリアが警戒。日本が最大の出資国であるアジア開発銀行(ADB)が5月の年次総会をフィジーで開いた背景にも、太平洋諸国に及ぶ中国の支援攻勢がある。
サモアの首都アピアの中心部から車で5分ほど行くと、政府が新港建設を検討するバイウス湾がある。静かな海にマングローブ林とサンゴ礁が広がっている。
新港の必要性について、パパリイテレ公共事業・運輸・インフラ相は取材に「アピア港が手狭になってきている」と説明した。
だが、アピア港は昨年6月、日本政府の35億円の無償援助で、埠頭(ふとう)の長さが2倍の約300メートルに拡張され、乗客2千~3千人の大型クルーズ船も停泊できるようになったばかりだ。
新港建設は、サモア政府の依頼でADBが2016年に将来の港湾整備計画を作ったが、「経済性が低い」と評価された。貨物量の増加も予想されず、アピア港の改修で十分、との判断からだ。ADBの立入政之・太平洋地域ディレクターは「新港への投資を(利用収入などで)回収するのは難しい。当分の間は新港の選択肢はない」と話す。
それでも、政府は「アピア港には、クルーズ船がいる間、貨物船のスペースがない」(パパリイテレ氏)と新港建設をあきらめていない。だが、産業と言えば、観光業やバナナやタロイモなどの生産・輸出くらいしかない人口20万人の島国に「建設に十分な財源はない」。そこで中国に支援を要請。これに中国が応じ、事業可能性調査を年内に終える予定だという。トゥイラエパ首相は習近平(シーチンピン)国家主席を年末までに招きたい意向を示しており、パパリイテレ氏は「習氏の訪問時に新港の支援が決まるのが望ましい」と話した。
■軍事利用の…