孔鉉佑・駐日中国大使
このところ、中国と米国の貿易摩擦が明らかにエスカレートし、双方の経済を傷つけ、アジアと世界の経済予想を悪化させ、中国と日本の経済協力にも悪影響を与えている。新任の駐日中国大使として、この問題を読み解いてみたい。
貿易摩擦を起こし、たえずエスカレートさせているのは誰か。中国と米国が国交を樹立して以来、特に新世紀に入ってから、両国の経済・貿易関係ではしばしば問題が生じたが、両国は二国間協定と世界貿易機関(WTO)などの多国間ルールに従い、対話を通じて意見の食い違いを解決してきた。相互補完関係を築き、それぞれの経済発展を促すことで、両国に幸せをもたらし、全世界に恩恵を及ぼしてきた。
しかし、2017年に登場した新しい米政権は、「米国第一」を掲げ、一国主義、保護主義を実行している。中国に関税というこん棒を振り回し、自国の利益を他国の上に置いた。多くの日本の友人は私に、米国の手法は過去の日米貿易戦争を想起させ、そのやり方は往年の対日貿易戦争の道具箱にあったもので、米側の高圧的なやり方は人ごとではないと語っている。
米国が中国との貿易摩擦を起こし、エスカレートさせている背景には、理解しがたい「執念」と不思議な論理があり、こじつけも非常に多いと多くの企業家や経済学者が感じている。一部の論法には、ごまかしとペテンもある。
米国の一部の人々は、中国が交渉で前言を翻したと言う。実際のところは、中国は両国は共通の利益と世界の貿易秩序を守るために力を尽くし、最大の忍耐と誠意をもって米国の懸念に応え、対話と話し合いを通じて係争を解決してきた。
ブエノスアイレスで昨年開かれたG20首脳会議以降、中国は米国と何回も対話・協議を進め、実務的なプランを示し、大変な努力によって交渉は少なからぬ進展をみた。
ところが米国は再三前言を翻し、要求をつり上げた。例えば、今年3月末から4月末にかけて交渉は実質的に進展し、意見の食い違う点も大部分で一致をみた。中国政府は残された問題について、双方が互いに理解し、譲り合うことによって解決法を探ろうと提案した。
中国の成果、抹殺できず
だが米国は一を得て二を望み、不合理な高い要求を続け、貿易摩擦が始まった後に追加したすべての関税を廃止しようとせず、取り決めに中国の主権問題にかかわる強制的な要求を書き入れようとした。一方で中国は立場を後退させたと非難し、中国から輸入する2千億ドル分の製品の関税を10%から25%に引き上げ、中国製品3千億ドル分に対する関税追加手続きを始め、交渉の重大な挫折を招いた。
米国の一部の人々は、中国は貿易黒字で米国から甘い汁を吸っているという。中国は故意に貿易黒字を追求してはいない。中国の国内総生産(GDP)に占める経常黒字の比率は2007年の11・3%から2017年は1・3%に下がっている。貿易の不均衡は、双方の産業の比較優位や補完関係の反映であり、国際分業と多国籍企業の生産配置の変化の必然的な結果だ。米国の対中ハイテク製品輸出規制や米ドルが主要な国際通貨であることとも関係がある。
米国は中国が先進技術を「盗んだ」と非難しているが、これは中国の科学技術進歩に向けた厳しい努力を中傷するものである。中国には2600校余りの大学、11万余りの研究開発機関があり、620万余りの研究開発要員がいる。社会全体の研究開発費も2000年以降、年率20%近い速度で伸びている。
中国の科学技術の進歩は長期的な国家振興戦略の結果であり、すべての人民、とりわけ科学技術分野の関係者の勤勉な仕事の成果である。
知的財産権保護に対する中国の態度は明確で揺るぎない。先進国が数十年あるいは100年以上かかった立法の道のりを短期間で歩み、知的財産権の全面的な保護と運用、管理体制を築きあげている。成果は明白だ。
2016年より前、米政府の公式報告書は中国の知的財産権保護の成果を積極的に評価していた。最近の米政府による中国の知的財産権保護に対する不当な非難も、中国の大きな努力と成果を抹殺できない。
中国の産業補助金政策が市場競争をゆがめているという人がいる。補助金政策は市場の失敗に対応し、経済発展の不均衡問題を解決する手段の一つで、米国など多くの国が広く採用している。中国はWTO加盟以来、国内政策分野のコンプライアンス改革を積極的に進め、WTOの「補助金及び相殺措置に関する協定」の義務を確実に履行してきた。透明性の原則を順守し、規定に従って国内の関係法規や具体的な措置の修正や見直しの状況を定期的にWTOに報告している。18年1月現在、中国が行った報告は千件以上に達し、中央と地方の補助金政策など多くの分野に及んでいる。
米国には、中国と商売をすれば国家安全保障が脅かされるというおかしな議論がある。こうした主張は実に理解に苦しむ。
国際社会にも影響
中国はよりよい発展を、中国人民はより幸福な生活を望んでいる。中国と米国は互恵的であってこそ、ウィンウィンの関係を築くことができる。貿易摩擦は米国を再び偉大にしない。両国が長年の努力で築いてきた関係を損ない、米国企業と消費者の利益を傷つけるだけだ。
城門火を失して殃(わざわい)魚に及ぶ〈池魚の殃〉という。中国と米国の貿易摩擦は両国だけの問題ではなく、日本、アジアおよび国際社会にも大きな衝撃を与える。
中国は日本の最大の輸出市場で、両国の貿易額は毎年3千億ドルの規模を維持しており、日本企業が毎年中国で生産し米国に輸出している製品は1兆円に上る。しかし、中国と米国の貿易摩擦で中国にある日系企業の収益力は弱まり、日本の対中輸出が減った。
今年5月、日本の内閣府は2013年1月以降初めて景気の基調判断を「悪化」に引き下げたが、重要な要因は中国と米国の貿易摩擦だ。
より広い視点でみれば、米国が保護主義、一国主義を推し進め、戦後形成された自由貿易体制を壊すことは、アジアと世界の経済情勢に悪影響を与える。
河海は細流を択(えら)ばず、故にその深きを成すという。商品、資金、技術、人が移動することで、経済成長の力強い原動力と広大な空間が与えられる。現在、世界の経済情勢は微妙で、IMFは世界の成長予測を3回連続で引き下げた。
貿易摩擦がエスカレートを続け、中国と米国の経済・貿易協力が切り裂かれるならば、グローバルな産業のつながりやサプライチェーンは大きな痛手を受け、はかりしれない影響がもたらされるだろう。
米国が貿易摩擦をエスカレートさせるのに伴い、中国経済をあしざまに言い、米国の関税のこん棒の威力を誇張し、中国経済の強靱(きょうじん)さを過小評価する人もいる。
だが、習近平主席が第2回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムで、中国経済は一つの大海であり、無数の暴風豪雨に見舞われても、大海は依然としてそこにあると指摘したとおりだ。貿易摩擦がどんな変遷をたどろうとも、中国は新時代の改革・開放を揺るぎなく全面的に深化させ、より広い分野で外資の市場参入を拡大させる。知的財産権保護の国際協力をより強化し、輸入を増やす。マクロ経済の国際的な政策協調を一層有効に行い、対外開放政策を貫徹するだろう。
中国経済というこの大木は倒れることなく、一層枝葉を生い茂らせ、より多くの鳳凰(ほうおう)を呼び込むだろう。日本の経済界が視界を遮られることなく、大勢を見極め、チャンスをつかみ、中国の発展というバスに乗り遅れないよう希望する。
中国と米国が互恵的でウィンウィンの関係を築くための合意に達することは、両国の利益にかなうだけでなく各国の共通の期待でもある。米国との協議に対する中国の立場は明確で揺るぎなく、扉は大きく開かれている。しかし交渉は相互尊重、平等互恵の形で行われなければならない。言ったことは必ず守り、言行は一致されなければならない。
米国が中国と同じ方向へ進み、経済・貿易の意見の食い違いをコントロールし、協力を強化し、協調と協力、安定を基調とする関係をともに推し進め、両国と世界の人民の幸福と利益を増進するよう希望する。
◇
〈コン・シュワンユー〉1959年、黒竜江省出身。85年以降、日本勤務は約15年に及び、中国大使館公使などを歴任。ベトナム大使や外務次官などを経て5月から現職。