刑事事件の容疑者を中国本土に引き渡すことを可能にする香港の「逃亡犯条例」改正案に反対する抗議活動は17日も収束せず、香港の混乱は長期化する様相だ。中国が後ろ盾となっている林鄭月娥・行政長官の辞任を求める声は高まるばかり。米国は香港問題を中国との通商協議に絡める構えを示し、習近平(シーチンピン)指導部も難しい立場に追い込まれている。
17日午後、香港トップの行政長官が執務する行政長官弁公室の周囲を数千人のデモ隊が埋めた。「どうして香港人の声を聞いてくれないのか」。デモ隊の一人が訴えると、「対話せよ」と連呼する声が起こった。
弁公室周辺は普段、厳しい警備態勢がとられているが、警察は今回、デモ隊の接近を認めた。強制排除すると衝突が再発し、市民の怒りがさらに高まりかねないと判断したとみられる。
16日のデモが過去最大の「200万人近く」(主催者発表)にふくれあがったこともあり、政府本部は17日、3営業日連続で閉鎖。民主派は警察が介入する口実を与えないよう道路の占拠や過激な行動は控えているが、抗議活動の勢いは衰えていない。
この日、2014年の民主化デモ「雨傘運動」に絡む罪で5月から服役していた元学生リーダー、黄之鋒氏が刑期満了で出所。報道陣に「香港の自由のために、ともに闘っていく」と述べ、抗議活動に加わる考えを明らかにした。
批判の矢面に立つ林鄭氏は17年7月、行政長官に就任した。政府ナンバー2の政務長官当時、雨傘運動で学生の要求をはねつけた姿勢が中国政府に高く評価されたとも言われる。
長官就任当初は、庶民の暮らしの改善を重視する穏健路線を掲げるなど市民の評価は高かった。だが、今年2月に条例改正案を発表すると支持率が急降下。香港大の世論調査によると、就任直後に60%を超えていた支持率は、最新の調査で43・3%まで落ち込んだ。
林鄭氏は16日にコメントを発表し、社会の混乱を招いたとして市民に初めて謝罪した。歩み寄りの姿勢を示して事態の収拾を図る狙いとみられるが、市民に響いているとは言いがたく、求心力の低下は明らかだ。
ロイター通信が16日、消息筋の話として「北京は林鄭氏の手腕に強い疑念を抱いている」と伝えるなど、後ろ盾の中国政府の支持が揺らいでいるとの見方も出始めた。(香港=平井良和、宮嶋加菜子)
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