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ラグビー・ワールドカップ(W杯)日本大会開幕を9月に控え、半沢直樹シリーズなどで有名な作家の池井戸潤さん(55)が、低迷する社会人ラグビーチームの再建を描いた小説「ノーサイド・ゲーム」(ダイヤモンド社)を書き上げた。これまでも「陸王」「ルースヴェルト・ゲーム」とスポーツを題材にした作品を生み出してきた池井戸さんに、ラグビーを描く面白さや今作への思いを聞いた。 ――なぜラグビーを書こうと思ったのか。 5年ほど前、社会人ラグビーの関係者にチーム再建の話を聞いたのがきっかけです。みんなの思いが熱いから、これはいい人間ドラマになるなと思って。 ――かなり研究を。 ロッカー描写にこだわり 一生分の試合は見たかも。トップリーグの現場も行った。ファンは寒い中でも2試合続けて見ていて、本当に好きなんだなと思った。 ――ロッカールームの描写に「(鎮痛消炎剤の)サロメチールの匂いが充満する」とあった。ラグビー経験がある人にとっては懐かしい匂い。 そこはすごく重要。ラグビーのロッカーを描写するならサロメチールの匂いがしないといけない。関係者にそう聞いたし、実際にロッカーにも入れさせてもらった。行かないと分からなかった部分です。ロッカーでも会社でも、描写する上で一番大事なのは、雰囲気や空気感なので。 ――これまで陸上や野球を題材にした小説を書いてきた。ラグビーならではの面白さ、苦労は。 「陸王」の走るシーンは思った通りに書けた。でも今回は一度、600ページくらい書いたけど本物感が出なくて全部、ボツにした。何がダメかを考え、ノーサイドの精神とかを美化していたと気づいた。だから建前を取っ払って本音しか書かないようにした。また、経営的な観点を入れた方が自分らしいと。 ――600ページをボツに。 生煮えなら捨てた方がマシ つまらない生煮えのものを出すくらいなら捨てた方がマシ。作家に必要な力は三つある。いいなと思ったものを書く力。自分の小説を客観的に評価する力。そしてもう一つが直す力。今はゲームからハリウッド映画まですべてのエンターテインメントがライバルの時代です。徹底的に細部まで直して、自分のベストを出して勝負するしかない。 ――スポーツを描くことの難しさは感じるか。 スポーツは映像で見るのが一番面白いと思う。「野球小説は売れない」というジンクスがあり、ラグビーなら惨敗の可能性もある。でも、今年は日本でW杯があるし、この作品はラグビーの殻をかぶったエンタメ小説。ラグビーが分からなくても読める。僕の小説を動かすエンジンは、人間ドラマなので。 ――それでも試合の描写ではキックパスや司令塔の併用など、今のラグビーの潮流を表現している。 (司令塔の併用は)選手名鑑を見て(ポジション欄に)SOとCTBが併記されている選手がいることに気付いて面白いな、と。キックパスは、ニュージーランド(NZ)代表のSOボーデン・バレットを見て入れようと思った。 ――W杯は楽しみか。 スーパーラグビーを見てもすごいとは思うけど、やっぱり国対国の戦いが見たい。一番興味があるのはNZのハカ。画面で見るとユニークだけど、実際に見た人は怖いと言う。だから、見てみたい。(聞き手・野村周平) ◇ 〈いけいど・じゅん〉 1963年、岐阜県出身。98年に「果つる底なき」で江戸川乱歩賞、2011年に「下町ロケット」で直木賞受賞。主な作品に半沢直樹シリーズ、花咲舞シリーズなど。今月13日発売の「ノーサイド・ゲーム」は7月にTBS系列でドラマ化される。 |
池井戸潤さん、本物感こだわる「600ページをボツに」
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