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高校生最速上回る「163キロ」 衝撃の球速の秘密は

4月6日、奈良県内で開かれた高校日本代表候補による合宿の紅白戦。左足を高々と上げて投げる佐々木朗希(ろうき)(岩手・大船渡)の速球に誰もが目を奪われていた。7球目だった。「163」。プロのスカウトが持つスピードガンの一つに、それまでの高校生最速を3キロ上回る数字が表れた。


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全国を代表する打者6人に25球を投じ、全員から奪三振。奥川(おくがわ)恭伸(石川・星稜)、西純矢(岡山・創志学園)、及川(およかわ)雅貴(神奈川・横浜)――。150キロ台の直球を投げる投手が居並ぶなか、佐々木はひときわ輝いた。それでも試合後、本人は納得していない様子だった。「すごく緊張して、変に力んで指に掛からなかった」


集ったプロのスカウトはそろって高評価だった。ソフトバンクの永井智浩・編成育成本部長が言った。「数字どうこうではなく、速い。スケールの大きさ、夢がある」。ある球団スカウトは電話で報告を入れていた。「これはずっと追いかけるべきです」


身長190センチ、体重86キロ。日米のプロ球団が注目する右腕は、岩手県陸前高田市で生まれ育った。9歳のときに東日本大震災で被災。大船渡市に転居し入学した大船渡一中では、仮設住宅と隣接するグラウンドで白球を追った。


「朗希の地肩の強さはすごかった。センターから一塁に矢のような送球でアウトを狙っていた」。中学で軟式野球部の監督だった萬(よろず)英一さん(59)が入学当初を思い返す。身長はまだ170センチほどだが、身体能力は光っていたという。しかし、この頃から度重なる成長痛や股関節の故障で、投手としての起用は限られた。


コーチとして指導した鈴木賢太さん(30)は振り返る。「投手として勝たせたかったが、それ以上にケガがひっかかった。高校より先を見据え、(登板を)諦めた大会もあった」。中3で141キロを記録。高校は地元の公立校へ。進学直後も大船渡の国保陽平監督(32)が、「負荷に耐えられる体になるまでは」と慎重だった。


大谷翔平(大リーグ・エンゼルス)も、花巻東高(岩手)時代は故障に苦しんだ。2年のときに股関節を痛め、指導者は秋の公式戦で投手としての起用を控えた。同じように大人に守られながら育った佐々木は高1の夏、身長186センチになっていた。投げられない間も体作りを根気強く続けた。


大船渡で同学年の投手で、中学から一緒にプレーする和田吟太が証言する。「みんなはすごいと言うけど、朗希は速い球を投げる方法を自分で考えて、高1のころから体幹トレーニングや食トレを地道に続けてきた。あれだけの球を投げて当然です」


痛みに苦しんだ分、柔軟運動などの体のケアにも人一倍、気を使った。4月の合宿で、ともに過ごした創志学園の西はそんな姿に感心した。「佐々木は『けがをしたくない』とストレッチを大事にしていて、1人で黙々と徹底的にやっていた」


大人の心配りと佐々木の努力がうまくかみ合い、「163キロ」は生まれた。


筑波大硬式野球部の監督で動作解析を研究する川村卓(たかし)准教授は、佐々木についてこう見る。「バランスをとる能力が非常に優れている。左足をあれだけ高く上げても一切右足がぶれない。体の強さだけじゃなく、巧みに動かせている」


6月30日、秋田県由利本荘市のグラウンドで行われた由利(秋田)との練習試合。プロ8球団のスカウトと多くの報道陣が佐々木の仕上がり具合を見つめていた。3回無失点。最速は153キロだった。


高校最後の夏、佐々木は勝利だけを求めている。ただ、スピードを意識しないわけではない。大谷が日本ハム時代にマークした日本最速の165キロまで、あと2キロ。「2キロの壁はすごく高いけど、自分の体と向き合いながらやっていけば、いつか出ると思う」。それは、この夏かもしれない。大船渡の初戦は15日、遠野緑峰戦だ。


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