「『下克上』 12人の精鋭、有言実行」
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2016年の夏、新聞紙面では選手12人の活躍が大きく取り上げられた。初めての8強入り。「足利南旋風」を起こした。
「精鋭」の一人、渡辺光夢(あきむ)さん(20)は夕方、仕事帰りに母校のグラウンドに通っている。今夏、足利南(栃木県足利市)は3年ぶりに単独出場を果たす。「スコアボードに『足利南』と書いてあると感動します」。福島秀駿主将(3年)の父の直人さん(44)ら保護者も期待を膨らませる。
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大躍進から一転。16年夏が終わり、3年生が引退すると部員は2人に。秋の県大会から連合チームに加わった。引退前から分かっていたことだったが、渡辺さんはガランとした放課後のグラウンドを見るのが寂しかった。
就職して地元を離れた。チームメートも各地に散らばった。
今春、製造業の企業に転職し、足利に戻った。朝8時に出勤し、午後5時まで工場で働く。慣れない作業が続き、夕方ごろには全身がぐったり疲れる。
5月、久しぶりに母校のグラウンドをのぞいた。何人もの選手が白球を追って駆け回っていた。予想しなかった風景だった。にぎやかな雰囲気に驚いた。「1年生が4人入った。9人そろったんだ」。谷昌範監督からそう伝えられると、うれしさがこみ上げてきた。
「何か手伝ってあげられることはないですか。できることがあれば、何でも手伝います」
自然と口に出た。12人でも練習は厳しかった。「バッティング練習をするのもぎりぎりに違いない」。同級生の舘野秀輔さん(20)にも連絡を取った。ほかのメンバーにも声をかけた。
仕事帰りに、そのままグラウンドに通う生活が始まった。打撃練習では空いた守備に入った。練習試合ではOBで仕事を分担し、審判をつとめ、スコアボードを操作する。ボールボーイも守備や打撃のアドバイスも進んでやる。練習が終われば、選手と一緒にグラウンドを整備している。
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最後の夏は特別だった。すべてをかけて無我夢中で練習した。「集中力ならどのチームにも負けない自信があった」。試合結果もついてきた。
準々決勝の矢板中央戦。初の8強にスタンドも盛り上がった。エースが粘投したが、八回に集中打を浴びてコールド負け。「いつの間にか試合が終わっていた」。今でも悔しさが消えない。だが、「後にも先にも、あれだけ一生懸命になったことはなかった」。
卒業から2年しか経っていない。それでも球児たちが輝いてみえる。無我夢中の姿が無性にうらやましい。「プレーを楽しんでほしい。悔いは残さず、やりきってほしい」(平賀拓史)