全体練習はなし。部員のそれぞれが守備練習か、打撃練習かを選ぶ。ティーバッティングをしたり、ノックを受けたりして自らの課題や苦手意識を克服する。山口県宇部市の香川の独特の練習方法だ。
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唯一の3年生で、主将の中山裕介君は7月上旬、グラウンドで黙々と打撃練習に取り組んでいた。「今の課題はバッティング。外角の速球に苦手意識があってうまく対応できない。でも、自分のペースで練習できる自由な環境だから野球を楽しめている」
平日は午後4時前、軽いストレッチをした後、練習はスタートする。選手は21人。自ら課した練習メニューを終えると、みな三々五々帰っていく。練習時間は決まっていないが、午後7時までには終える。
香川は、野球経験はあるが小、中学校でレギュラーではなかった選手も多い。徳田雅裕監督は「それぞれが抱える課題は違う。自分に必要だと思う練習をする中で、野球が楽しいという思いをまずは感じてもらいたい」。効率的な練習を目指した。
中山君が入部したのは昨夏。小学、中学時代に野球経験はあったが、高校では初め迷った。同級生が一人もいなかったからだ。通学するのに使う列車も本数は少なく、練習時間が短くなってしまう。それでも、徳田監督の勧めもあって、当時部員数が9人以下になる可能性があったチームへの入部を決めた。
順風満帆ではなかった。夏の新人大会には二塁手として出場したものの、今春に1年生が加入するとレギュラーの座を奪われた。悔しい。相談できる同級生がいない心細さもあった。辞めるのは簡単だったが、ボールに触れていると不思議と嫌な気持ちはなくなった。
6月にあった練習試合には先発出場し、二塁手として併殺プレーを決めた。打撃でも、速い打球を飛ばすことができるようになった。「目標としていたプレーが少しずつできるようになった。チームメートと一緒に課題を乗り越える感覚がやっぱ楽しいし、うれしい」
夏の大会は試合に出場できるかは分からない。でも、中山君は「高校で野球をやって良かった。1勝でも多く、今は仲間と少しでも長く野球を続けたい」と話した。(藤牧幸一)