日曜日の夕方、岐阜市の野球専門店「竹中スポーツ」に1組の親子が来店した。「文字の刺繡(ししゅう)を入れてください」。足立陸斗君(13)は、そう言うと、オレンジ色のグラブを差し出した。
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「最近はゴールドも人気やで」。店を営む竹中崇人(たかひと)さん(35)がアドバイスする。数分悩んだ足立君は「金色のローマ字で名前を」と注文した。
球児たちにオーダーメイドのグラブが普及し始めたのは平成に入ってから。「自分らしさ」を表現するため名前や座右の銘を刺繡するのが流行した。「練習が最優先」とされ、見た目を気にすることができなかった球児たちが変わりだしたのも平成。今では、野球道具やユニホームで「おしゃれ」を楽しんでいる。
今春、伝統校・県岐阜商のユニホームが変わった。一見、色合いの変化が目を引くが、一昔前と大きく違うのはそのシルエットだ。
「昔はゆるっと、今はぴたっと」。最近のユニホームは細身のスタイルが定着。特にパンツやアンダーシャツが進化した。1990年代からポリウレタン製が登場。速乾性や伸縮性に優れ、一気に流行した。
スポーツ用品メーカー「ミズノ」によると、高校野球で細身のユニホームが流行したきっかけは強豪校の戦略だったという。
「筋肉を強調するため、サイズを落として着るようになった。力強さをアピールしたようです」
持ち物はライフスタイルの変化にも影響される。かばんは5年ほど前から肩掛け式かばんからリュックに変わり始めた。収容量が増え、体のゆがみを防ぐことができる。加えて、両手が空くため、高校生の生活必需品であるスマホも操作しやすくなった。
「プロではやったものが、大学野球ではやり、その後、高校野球に浸透する」と、竹中さんは分析する。球児たちはトレンドに敏感で、新しいものがあると「これ何?」「どこがいいんですか?」と興味津々。バットやグラブなどは、あこがれのプロ選手が使用していたモデルが人気だ。
流行に合わせ、商品の種類は大幅に増えた。インターネットの普及で、通信販売で簡単に購入もできるように。フリマアプリ「メルカリ」などを活用し、手頃な価格の用具を購入する人も増えた。だが、様々な商品が存在する分、品定めは難しい。
6年前、竹中さんは、50年以上続く店の肩書を「野球専門店」に変えた。「用品」の文字を抜き、物を売るだけでなく、野球の全てに関する専門店でありたいと考えた。
店には悩みを持った客も来る。中学1年の男子生徒は、友人にもらったバットが重く、フォームが崩れてきたと打ち明けた。
「振ってみ」。店内にはバットを振れるスペースも。竹中さんがトスを上げ、スイングを促した。
選手の希望も聞きながら、体格やスイング速度に合ったバットを選ぶ。「バットは実際に振らんと分からんからね」。何でも購入できるネットとは違い、合ったものを提供したい。予算の相談にも乗る。
「大切なのはコミュニケーション。それが、店を野球『用品』店としていない理由です」。竹中さんは最近、ツイッターやインスタグラムでも商品の情報を発信。SNSでも球児と連絡を取るようになった。
「スイングがうまくなりたい」「応援Tシャツを作りたい」。相談内容は様々。「困っていることを一緒に解決する店でありたい」。流行に適応しながら、店の理念は変わらず貫きたい。そう思っている。