第101回全国高校野球選手権佐賀大会(朝日新聞社、佐賀県高野連主催)は14日、佐賀市のみどりの森県営球場で2試合があり、唐津工と鳥栖がそれぞれ準々決勝進出を決めた。第3試合に予定されていた唐津西―北陵は、雨のため15日の第1試合に順延となった。
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(14日、高校野球佐賀大会 唐津工4-1佐賀商)
四回表、試合が中断した。佐賀商の二塁手、中島優仁(ゆうと)君(3年)ら内野陣はマウンド付近に集まった。守備の要の遊撃手、済木龍輝(りき)主将(同)はいない。
この直前、済木主将は担架で運び出されていた。三塁ベースカバーに入った済木主将と、走り込んできた唐津工の二塁走者の足が交錯。済木主将はその場にうずくまり、立ち上がれなくなったためだ。
動揺してもおかしくない場面。でも中島君をはじめ、みんな「あいつは強いから絶対帰ってくる」と信じていた。あえて済木主将の話はしなかった。
中島君と済木主将は幼なじみ。豊富な練習量から生み出される併殺プレーの「ゲッツー」が売りで、その守備力は昨夏優勝の原動力の一つになった。
甲子園で初戦敗退後、当時のエースで主将の木村颯太君から「絶対に来年もここに来いよ」と言われた。「あの舞台にもう一度立とうな」。2人の約束になった。済木主将は腰痛を抱えていたが、毎日練習に来て、弱音を吐いたことはなかった。だから今度も帰ってくると信じていた。
5分ほどたち、済木主将は戻ってきた。守備についた姿は、いつもと変わらないようだった。
だが中島君には、走る姿がどこか痛そうに見えた。本人の「笑顔で」と周りを鼓舞する声が心に刺さり、闘志に火がついた。
1―4とリードされた九回。森田剛史監督や済木主将から「一番多いチェンジアップを狙え」と言われ、降りしきる雨の中、左打席に立った。グリップを握り直し、深呼吸。バントの構えから球を見極めて打ちにいく、昨夏の決勝をほうふつとさせるスタイルだ。初球。「来た」。振り抜いた打球は中堅へ抜けた。一塁で右拳を突き上げると、ベンチに済木主将の喜ぶ顔があった。
だが後続は打ち取られた。中島君は、ベンチ裏で泣き崩れる済木主将の横で泣いた。悔いは残る。それでも「今日は2人でゲッツーが取れたのでよかった」と涙を拭い、晴れやかな表情を見せた。二回表、確かに4―6―3という2人の最後のゲッツーが、記録に刻まれていた。(松岡大将)