(7日、高校野球佐賀大会 早稲田佐賀6―2佐賀西)
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4点差をつけられた終盤の八回表1死一塁、佐賀西の代打がコールされた。打席に向かったのは背番号18、1年生の黒嶋風希(ふうき)君。夏、初打席だ。
緊張感のなか、初球から打ちにいった。思い切り振ったバットに当たったボールは、ファウル。手に力が入る。2ボール2ストライクとなり、高めに来た球をまた思い切り振った。打ち損じ、三塁ゴロ。全力で一塁を駆け抜けたが、塁審はアウトの手を上げた。
相手の早稲田佐賀がいる一塁側ベンチ前を通り、戻る。見慣れた顔が、そこにあった。
この日は投げず、ベンチから戦況を見守っていた早稲田佐賀の背番号1、エースの黒嶋飛来(ひらい)君(3年)。風希君の兄だ。小学3年生のとき、先に野球を始めた兄に興味を持ち、同じチームに入った。
兄が唐津市の早稲田佐賀に進学して寮生活を始めると、佐賀市の実家に戻るのは年に10日ほどになった。野球の話はほとんどしない。ただ6月に帰ってきたときには、「甲子園に出ろよ」と声をかけた。対戦が決まったのは、その数日後。兄がエースのチームと初戦から当たることに、「まさか」と思った。「意識させて迷惑をかけてはいけない」と、やりとりはしなかった。
試合前、目が合った。「打ってやろう」。自分と、兄の出番を待った。
試合後、球場の外で兄が駆け寄ってきた。「これからも頑張れよ」と、お尻を軽くたたかれた。風希君はうなずき、背中をたたき返した。
「1年生なのに出場できてすごいなという思いもある。対戦できてよかった。本当はあいつに対して投げたかった」。そんな思いを抱く兄の最後の夏を、風希君はこれから応援するつもりだ。(松岡大将)