参院選で全国32ある1人区の勝敗は選挙全体を左右する。立憲民主党や国民民主党など野党5党派は全32選挙区で候補者を一本化、自民党と一騎打ちの構図をつくった。ただ、民進党分裂の後遺症や共産党との距離感に悩む選挙区もあり、政権批判票の受け皿になり切れるかは見通せない。
「民進党続いていれば……」 野党勢力同士が確執 熊本
3年前と似た風景だった。「安倍政権を続けさせてはならない」。参院選が公示された4日、熊本選挙区に立候補した無所属の新顔、阿部広美氏(52)は熊本市内で第一声を上げた。
立憲、国民、社民、共産、そして連合熊本――。集まった県組織の幹部の多くは、阿部氏が野党統一候補として挑んだ前回参院選と重なる。しかし、陣営スタッフはいう。「3年前とは熱気も雰囲気も違う。ずいぶん寂しい」
自民が強い地盤を持つ熊本。野党側では自民に対抗するため、連合が国政選挙で野党勢力の仲裁を図る「熊本方式」が定着していた。3年前の阿部氏は、共産を含む統一候補を無所属で擁立する方式の全国第1号となった。
だが、民進の分裂で風向きは大きく変わった。
勢力拡大を急ぐ立憲県連は昨年夏、参院選で党公認の独自候補の擁立を模索。共闘を主張して反対した県連代表代行の鎌田聡県議が離党する騒動となる。
混乱の末に統一候補となった阿部氏も野党勢力の確執に翻弄(ほんろう)される。今年4月の統一地方選で共産候補の応援演説をすると、同じ選挙区で組織内候補を立てていた連合の内部で反発の声が広がった。連合熊本はすでに決めていた阿部氏への推薦を5月に取り消した。立憲や国民も最大の支援組織の意向を配慮し、党本部推薦を見送る。阿部氏が党本部の推薦を得たのは共産、社民のみとなった。
危機感を抱いた鎌田県議は6月、地域政党「くまもと民主連合」を立ち上げ、阿部氏への推薦を決めた。「大きなネットワークが必要だ」と訴えるものの、立憲と国民の所属議員は「民主連合」への参加を見送ったまま。「民進党が続いていれば……」。鎌田氏はそう嘆く。(神崎卓征)
「与党に立ち向かう」連合に配慮、党派色薄める 三重
鎌田氏が求める「大きなネットワーク」のモデルは三重選挙区にある。「なんとか野党をまとめる方法はないでしょうか」。三重の岡田克也・元民進代表に電話をかけ、指南を受けた結果が「民主連合」だった。
岡田氏は昨年夏、立憲、国民双方の地方議員を取り込んだ地域政党「三重民主連合」を立ち上げ、参院選で新顔の芳野正英氏(44)の擁立を決めた。共産とは、市民団体を間にはさんで政策協定を結ぶ「ブリッジ共闘」で連携関係をつくる。共産との直接的な共闘の色を薄めるのは、連合三重への配慮だ。
1人区での野党候補の一本化は、自民の組織力に挑む前提条件となる。野党候補が乱立した6年前は2勝にとどまったが、一本化して臨んだ3年前は11勝に持ち直した。
「野党がこぞって一緒になり、与党に立ち向かう」。8日の三重県伊勢市の陣営の演説会で、岡田氏が声を張り上げた。連合三重や立憲、国民の県連幹部がマイクを握って政権批判を展開する中、共産の地方議員らは聴衆の後方で聴き入るのが定番の姿だ。三重民主連合の幹部は「重鎮の岡田氏が無所属のまま立憲と国民の間に立ってグリップし、共産とも配慮し合う態勢を築いている」という。
32の1人区で、熊本や三重のように党派色を消す無所属候補は18人を数える。共産も公認は1人に絞った。一方、立憲の公認候補は7人、国民は6人いるが、互いに推薦は出していない。地元で立憲公認を抱える国民幹部は「あちら様の候補者だから、頼まれたことをやるだけ」と口にする。
しかも32人のうち現職は国民の1人だけで、新顔は知名度不足が課題だ。朝日新聞の序盤情勢調査で自民にリードまたは、ややリードしているのは秋田、長野、愛媛、沖縄の4選挙区にとどまっている。(岩尾真宏、三浦惇平)