トヨタ自動車が米ゼネラル・モーターズ(GM)から富士重工業の株式を取得し、富士重の筆頭株主になることが決まった。経営難のGMと富士重に対する支援色が強く、提携による相乗効果が出るかどうかは未知数だ。90年代後半の世界的な自動車メーカーの再編の中で、経営が悪化した国内メーカーが次々に米2強の傘下に組み込まれたが、ここ数年で立場は逆転。スズキやいすゞ自動車など、GMグループのスズキやいすゞ自動車もGMの今後の動きを注視している。【ワシントン・木村旬、山本明彦】
◇日米摩擦再燃の恐れ…出資比率は抑制
5日の会見でトヨタ自動車の木下光男副社長は「GMに対する支援を考えたものではない」と強調した。しかし、05年4~6月期(第1四半期)で11億円の最終赤字に陥っている富士重を切り離すことで、GMの負担が軽くなることは確かだ。
トヨタがドル箱の北米市場で業績を伸ばし、最高益を更新し続ける一方、GMやフォード・モーターは深刻な売り上げ不振に陥っている。このままでは、米国内で日本車への反感が強まり、経済摩擦が再燃する心配もある。富士重株買い取りの背景には、GMの再建を支援し、経済摩擦を防ぐ狙いがあるとの見方は根強い。
実際、トヨタは今春にも、燃料電池車の共同研究を強化することでGMの研究開発コストを軽減することを検討した。しかし、GMは米政府と燃料電池を共同開発する計画を持ち、競争相手のトヨタとは基礎研究や規格のすり合わせなどにとどめたい思惑があった。このため同分野での関係強化は難しくなっていた。
こうした中、GMのワゴナー会長は今年6月、富士重の竹中恭二社長に、富士重株を売却する意向を通告した。GMにとって富士重との提携効果は資材の共同購入などに限られ、富士重の業績悪化に伴いグループ内にとどめる意味は薄れていたからだ。独り立ちが難しい富士重はトヨタに買い取りを打診、GMとの関係を重視したトヨタが応じた。
ただ、トヨタがGMの持ち株すべてを引き取らず、出資比率を8.7%に抑えたのは、トヨタにとっても富士重をグループに抱える意味が薄いからだと見られる。富士重は自前の四輪駆動技術に定評があるものの、車種構成がトヨタ本体やグループのダイハツ工業と重なる。同日の会見でも木下副社長は「基本合意に達したばかりなので、これから検討委員会を設置して具体策を詰めたい」と述べるにとどめ、提携の具体的な青写真は示さなかった。
国内シェア(軽自動車を除く)の約45%を占めるトヨタが富士重を子会社化すると、シェアは過半数に近くなり、独占禁止法に触れる心配も出てくることも、出資比率を抑制した理由のようだ。
◇GM、世界戦略にヒビ
GMが富士重工業への出資を解消するのは、GM自身が経営難に直面し、大幅な合理化を迫られているためだ。各国の有力メーカーを相次いで傘下に収め、勢力拡大を図ってきた同社の台所事情は、世界戦略の見直しを余儀なくされるほど厳しくなっているわけだ。
同社は、今年5月に長期社債の格付けを「投機的等級」に格下げされ、社債発行による資金調達がしにくくなっていた。今回、富士重の株式を売却する背景には、そんな事情もあるようだ。
GMは燃費の悪い大型SUVを主力にしているため、ガソリン価格の高騰が響いて販売が低迷している。大幅値引きで6~7月は底上げしたものの、その効果も薄れた8~9月は再び大幅な販売減に陥った。6月に従業員2万5000人の削減や工場閉鎖などの大規模リストラを発表したが、販売回復のめどは立っていない。
GMが傘下に組み入れた海外メーカーは、サーブ(スウェーデン)、オペル(ドイツ)、大宇(韓国)などの有力ブランド。日本勢でも、富士重のほか、スズキやいすゞ自動車に出資し、「世界最大の自動車メーカー」の地位を維持してきた。
しかし、市場では「ブランドの乱立が販売戦略をぼやけさせた」と巨大化に伴う弊害を指摘する声が根強く、GMも合理化の一環としてブランドの絞り込みを打ち出していた。リストラに必要な資金を手当てするため、戦線を維持する余裕もなく、提携戦略の見直しに踏み切ったとみられる。
GMは今年2月、出資していたフィアット(イタリア)と提携内容で対立し、資本関係を解消した。ガソリン価格の高止まりが見込まれる中、GM再建の道筋はまだ見えず、富士重への出資解消を契機に今後の事業再編に拍車がかかる可能性もある。
◇GMから出資受けているスズキといすゞ…冷静に受け止め
GMから出資を受けているスズキといすゞ自動車は、GMの富士重株売却を冷静に受け止めている。スズキは小型車開発、いすゞはディーゼルエンジンの供給で貢献し、業績もいいためだ。
GMとスズキは01年、小型SUV「シボレークルーズ」を共同開発。スズキが生産し、GMブランドで国内販売している。ハンガリーでも小型車を共同開発し、スズキとGM傘下のオペルがそれぞれのブランドで欧州向けに販売。スズキはGMの小型車世界戦略で重要な役割を担っている。
いすゞは、GMのディーゼルエンジンの開発・生産の中核と位置付けられている。04年に北米向け大型商用車と欧州向け乗用車用にディーゼルエンジン約48万7000基を供給した。ディーゼル自動車の販売が増えている欧州でGMがシェアを伸ばすには、いすゞの協力が欠かせない状況だ。
ただ、いすゞには心配な材料もある。経営危機に陥った02年、銀行向けに発行した1000億円の優先株の普通株への転換が06年10月から始まるからだ。いすゞは、GMに一部の買い取りを求めているが、「まだ返事はない」(いすゞ)。GMが拒めば、新たな資本政策が必要になる。