東京国際映画祭第7日の28日、コンペティション部門では根岸吉太郎監督「雪に願うこと」の3度目の上映があり、それに先立ち、監督とキャスト4人を招いての記者会見が開かれた。
本作は、帯広出身の作家・鳴海章さんの原作を映画化したもので、事業に失敗しすべてを失った男・伊勢谷友介さん(29)が、故郷・帯広へ戻り、“ばんえい競馬”の馬の調教師をする兄・佐藤浩市さん(44)や、厩舎に出入りする人々との交流を通して再生していく姿をつづった感動作だ。
最初にマイクを渡された根岸監督は自身の作品を、重い荷物を背負った馬が2つの小山を登るレースになぞらえ「今日ここでみなさんにお会いして、やっと2つ目の山を登り切りました」と感無量の面持ちであいさつ。
一方、演じる側の佐藤さんは「(馬という)生き物の生命力の周りで、ちまちましながらも一生懸命生きている人間たちのドラマをたんのうしていただければ」というメッセージを寄せ、厩舎の賄い婦を演じた小泉今日子さん(39)は、「そういう役を与えていただける年齢になれたことがとてもうれしい」と、この作品に出られたこと自体を喜んでいる様子だった。
また、本作のキャッチフレーズ「すべてを失った時、あなたに戻る場所はありますか?」にちなんで「戻る場所」を尋ねられた4人。
男性陣は「母親です」(伊勢谷さん)、「僕ら(俳優)は仕事をしていない時がすべてを失っていることだと思うので、浮遊しているしかないと思う。そういうのが心地良かったりするので、戻るところは必要ありません」(佐藤さん)と答えたのに対して、小泉さんは「ひとりで生きていく覚悟は、もうとうにできています」ときっぱり。
一方、隣に座る女性騎手役の吹石一恵さん(23)は「いつか戻りたくなるような家庭を作ることが夢です」とコメント。慌てて隣に座る小泉さんに「すいません」と頭を下げるひと幕も。これに対して小泉さんはにっこり笑い、大人の女性らしい度量の大きさを見せていた。
その後、5人は舞台に立ち、根岸監督が「今日が『雪に願うこと』の誕生日です。温かい目で見守ってください」とあいさつすると、上映を待ちわびる観客たちから拍手が贈られた。
本作は、2006年、テアトル系にて公開予定。【りんたいこ】