試合前日になって、ようやく日本代表らしい明るさが戻ってきた。恒例となったミニゲームで笑顔も見えた。ジーコ監督は「気持ちは吹っ切れている。やっていることは間違っていない。自信を持てる」と語った。
難敵ぞろいのF組で最も勝ち点を得る可能性が大きいと期待されていたオーストラリア戦に1-3で大敗。自信を持って臨んだだけに「選手のショックはかなり大きかった。この5日間は精神的なケアに費やした」とジーコ監督は振り返る。
16日までの練習では、控え組の選手たちが盛り上げようと明るい表情を見せるが、先発組はなかなか乗ってこない。見かねたジーコ監督が「次に負けたら終わり。このまま日本に帰るのか。しっかり気持ちを入れてプレーしろ」と気色ばむ一幕もあった。16日の紅白戦では互いに指示を出す声もなく、ボールをける音だけが響いた。異様な静けさは、この4年間では見られなかったものだ。
クロアチアに敗れれば目標の1次リーグ突破が極めて困難になる。相手は開催国のドイツ1部リーグでプレーする選手も多く、地元も同然。今回は大会全体でも欧州勢が力を発揮している。98年フランス大会で3位の実績を残しているクロアチアの士気も高い。
だが、ジーコ監督はどこまでも前向きだ。「まだ2試合あって勝ち点6が取れる状況だ。ここで引き分けてもブラジルに勝てばチャンスは残る」。91年の来日以来、ジーコ監督と接してきた鈴木国弘通訳は「気持ちの切り替えはとにかく早い。彼の気持ちの強さは鉄板だ」と改めて驚きを隠さなかった。
「うれしくても悲しくても明日は来る。勝っている時は誰でも元気だ。負けた時に人間としての出方が分かる」。ジーコ監督はこう言い残してフランケン競技場を後にした。
選手たちが初戦で味わった落胆と屈辱感を闘争心に変えることができるのか、あるいはジーコ監督が懸念するように「気持ちがついてこないため悲惨な結果でW杯が終わる」のか。大きな分かれ道だ。中田英寿(ボルトン)は言った。「勝つという結果しか考えられない。やるしかない」【小坂大】
○…37.2度の熱を出して体調を崩していた中村は「90分間プレーできる? 余裕です。だるくもないし」と復調を強調した。恒例となっている居残り練習は今回はしなかったが「体の切れは確認できたから」。クロアチアとの試合展開を「守りの時間が長くなるかもしれないが、流れを呼んでうまくやっていきたい」と話した。
○…W杯での初戦を迎える加地は「楽しみ。コンディションは問題ない。負ければ終わってしまうので」と100%の状態であることを強調した。クロアチア攻撃陣の柱であるプルショは加地のサイドに流れてボールを受けることが多いため「最後までついていきたい」。タイミングのいい攻撃参加は日本の武器となるが「相手の裏をしぶとく突いていきたい」と意欲十分だった。
○…オーストラリア戦では3失点と屈辱を味わった川口は「思いっきりやるだけ。失うものはないので、意地とかプライドを見せたい」と気合十分の表情だった。中田英とともに3大会連続のW杯出場でフランス大会でクロアチアに敗れたメンバーの一人。「もちろん悔しい思いはあるけど、それを抜きにしても、目の前の敵を倒して、失点をしないだけ」と集中力を高めていた。
毎日新聞 2006年6月18日 0時40分 (最終更新時間 6月18日 0時59分)