王子製紙の篠田和久社長は29日の記者会見で、北越製紙への敵対的TOB(株式の公開買い付け)について断念する意向を表明した。主な一問一答は次の通り。【斉藤信宏】
--事実上の敗北宣言か。
◆TOBは限りなく不成立に近づいた。事実上の敗北宣言と受け取ってもらって結構だ。
--TOBを断念した今の気持ちは。
◆現時点でも王子の提案が最も良いと確信している。大変残念だ。本質的には製紙業界の危機感を(北越と)共有できなかったことが大きい。
--日本製紙グループ本社の参戦の影響は。
◆日本製紙だけなら影響は少なかったが、三菱商事と合わせて3分の1超の安定株主ができたことは大きな障害になった。
--取得できた株式をどう見ているのか。
◆40%は楽観的過ぎる。30%前後が妥当な数字だろう。
--TOB失敗の経営責任は。
◆TOB失敗で責任を取るのではあしき前例になりかねない。社内ではプロジェクト失敗の責任について当然議論する。
--(アドバイザーの)野村証券の評価は。
◆日本型と欧米型を組み合わせた難しい手法を頑張ってやってもらったと評価している。
--北越との今後の統合交渉の可能性は。
◆遠い将来のことは分からないが、近い将来の可能性は閉ざされた。
■解説 三菱商事の協力拒否と日本製紙の参戦ーー2つの誤算
王子製紙が北越製紙の買収を事実上、断念する事態に追い込まれた背景には、王子が水面下で経営統合を提案していた最中に、三菱商事が北越の筆頭株主として登場するという誤算があった。王子はTOB(株式の公開買い付け)期間中に三菱商事の協力を取り付けられると期待したが、三菱商事は一貫してTOB応諾を拒否。TOB阻止に動いた日本製紙グループ本社の参戦も想定外の“伏兵”となり、9月4日のTOB期限が迫るにつれて王子は打つ手を失っていった。
王子の篠田和久社長は29日の記者会見で、今回の敗因について「水面下で北越に提案を打診していた間に、三菱商事への第三者割当増資が決まったことが、最大のポイントだった」と振り返った。王子は7月3日に北越側に提案書を手渡したが、北越は21日に三菱商事への増資を決定。一気に24・44%の筆頭株主に躍り出た。
王子は自発的な増資撤回を期待したが、三菱商事は再三、撤回の意思がないことを表明。王子は裁判所への差し止め請求も検討したが「勝算が薄い」(幹部)と見送らざるを得なかった。8月7日の増資実施後もTOB応諾を求めてトップ会談を申し入れたが、三菱商事は「応じる意向は全くない」(幹部)との態度を貫いた。
篠田社長は会見で「かなりの可能性で三菱商事を説得できると考えていたが、結果的に甘い判断だった」と認めた。この誤算に日本製紙の参戦が重なり、両社で北越株の約3分の1を握られた。これにより、王子は仮にTOBが成立しても北越を完全子会社化することはできず、期待した統合効果が得られない状況に追い込まれた。
王子はTOB期限が迫る中、先週に入って打開策の検討を本格化。「いったんTOBを条件変更で成立させた上で、じっくり三菱商事を説得する」(幹部)ことも検討した。株主総会の欠席者も考慮すれば、北越株の50%超を取得しなくても実質的に議決権の過半数を行使できるとの見方から、取得目標を45%程度まで引き下げる案も検討。三菱商事の協力が見込める場合には、条件変更する選択肢を残していた。
しかし、三菱商事の態度は変わらず、欠席する株主からの委任状取り付けを争う「プロキシファイト」となった場合も、確実に議決権の過半数が取れるかが不透明なため、目標引き下げも断念。「市場の混乱を回避するため」として敗北宣言に踏み切った。【上田宏明、森山知実】
毎日新聞 2006年8月29日