【カイロ=押野真也】リビア領内の過激派「イスラム国」へのエジプトの空爆を受け、米欧諸国は戦線の拡大を懸念している。エジプトは米欧に支援を求めるが、米国を核とする有志国はイラクとシリアに軍事介入し、国家が分裂状態にあるリビアにまで戦線を広げることには慎重だ。
エジプトのシシ大統領は17日、フランスのラジオ局のインタビューに「(軍事介入以外に)ほかの手段はない」と述べ、空爆を続ける考えを示した。同時に「世界的な介入が必要だ」と強調し、米欧の同調を促した。
一方、欧州連合(EU)のモゲリーニ外交安全保障上級代表は16日、マドリードで記者会見し、リビア問題で今週中にワシントンでケリー米国務長官とエジプトのシュクリ外相との3者会談を開くことを明らかにした。リビアが「国家分裂とイスラム国の浸透という2つの危機に直面している」とも指摘した。ただEUによる軍事介入の可能性については「現時点で軍事行動で貢献できるとは考えていない」と否定的な見解を示した。
欧州では英国やフランスが米国とともにイラクでの空爆作戦に加わり、リビアにまで戦闘で関与したくないのが本音だ。米国はイラクへの地上部隊の投入を検討する段階にある。各国は軍事予算を容易に膨らませられない事情を共有する。
現在のリビアではイスラム国を排除しても、安定が見通せそうにない。これも米欧が軍事介入に消極的な一因だ。
リビアでは長く独裁体制を敷いたカダフィ政権が2011年に崩壊してから混乱が続く。独裁に反対する勢力を支援するために国外から大量に流入した武器を手に民兵組織が多く生まれ、内戦状態は長期化している。
暫定政府はあるものの「イスラム国」を含めた武装勢力は正統性がないとして独自に政府を樹立した。国軍や警察など治安機関の再編成も遅れ、治安の悪化は深刻だ。
一方、エジプトは米国の同盟国だが、イラクとシリアで米国が主導する軍事作戦に参加していない。2013年7月にシシ氏が国防相としてクーデターを主導した経緯をオバマ政権は問題視し、軍事援助の一部を凍結したのを機に関係にすきま風が吹く。エジプトは対米依存の外交方針を修正し始め、ロシアやフランスと兵器を購入する契約を相次いで結んだ。
エジプトは国内にイスラム国の関連組織を抱え、掃討作戦を展開する。首都カイロでも爆弾テロが相次ぎ、リビアに介入を続ける余力は小さい。当面は米欧とともにサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)など近隣のアラブ諸国に対し、リビア問題で支援を要請する可能性が大きい。
エジプトが攻撃対象としたリビアのイスラム国は内部で対立も抱えるとされる。「アンサル・シャリア」や「ダルナ青年イスラム評議会」など東部を拠点とする過激派組織が昨年夏ごろからイスラム国を名乗り、外国人の誘拐や製油所の襲撃などを繰り返してきた。今回のエジプト人の大量殺害には存在感を誇示する意図がありそうだ。
昨年11月にはイラクとシリアのイスラム国がリビアに「州」を置くと宣言し、リビアのイスラム国を関連組織と認めた。