【ドバイ=久門武史】過激派「イスラム国」が支配するイラク北部の要衝ティクリートの奪還に向けイラク軍が2日始めた作戦が難航している。さらに北にある同国第2の都市モスルを奪い返す一歩と位置づける作戦は、油田に火を放つなどイスラム国の激しい抵抗にあい攻略のめどは立たない。イラク国内の宗派対立が再燃する懸念も出ている。
イラク軍はイスラム教シーア派の民兵、政府に近いスンニ派の民兵とともに約3万人の勢力でティクリートを目指し、近郊で衝突が続く。イランからの報道によると、イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」の司令官がイスラム国を撃退する作戦を補佐し、武器供給などでも支援しているとみられる。米国主導の有志連合は加わっていない。
攻勢に対しイスラム国は狙撃や道路沿いに設置した爆弾で接近を阻み、自爆攻撃を仕掛けるなどして抵抗を続けている。5日までにティクリート近郊のアジル油田で黒煙が上がっていることがわかった。放火し、イラク軍ヘリによる攻撃を妨げる狙いとみられる。イラク軍の指揮官はAFP通信に「町を包囲して補給線を断つ」と述べており、長期戦を見込んでいる可能性が高い。
一方、アーネスト米大統領報道官は4日、「この作戦が宗派的な報復の口実になってはならない」と警告した。ティクリートはフセイン元大統領の出身地に近く、スンニ派住民が多い。
住民が、スンニ派の過激派武装組織であるイスラム国の「統治」を消極的にせよ受け入れた背景には、シーア派を優遇してきたマリキ前政権への不信感がある。ティクリートにはフセイン政権崩壊後の冷遇に不満を募らせる旧イラク軍の関係者も多いとみられる。
「挙国一致」を掲げて昨年9月に発足したアバディ政権もシーア派が主体だ。アバディ首相は作戦に先立ち、ティクリート周辺のスンニ派の部族にイスラム国への協力をやめるよう訴えた。
これに対しイスラム国は、政府に協力したスンニ派住民を処刑したとする映像を公開し、離反を許さない姿勢を示した。戦闘が「シーア派対スンニ派」の構図に陥れば、国民にくすぶる宗派間の対立感情を再びあおりかねない。
イラク軍がティクリート中心部に近づけたとしても、市街戦は避けられそうにない。イスラム国にはシリアでの内戦でゲリラ戦の経験を積んだ戦闘員も多く、戦闘は住民を巻き込んで泥沼化する恐れがある。
ティクリートをいつ奪還できるかは、アバディ政権が目指すモスル奪還の時期に影響する。米中央軍の当局者は2月、イラク軍とクルド自治政府の部隊によるモスル奪還の作戦を4~5月にも始めると明らかにしたが、カーター米国防長官は3月3日、事前の公表は「誤りだった」と認めた。イラクのオベイディ国防相は米中央軍の作戦予告に不快感を表明し、調整不足を露呈している。