米国での景気回復のパズルに欠けていたピースの一つが賃金の上昇だが、その賃金が今年急速に上昇しており、労働市場で人手不足の兆しがみられる。
民間部門の賃金上昇率は2014年10~12月期の2.2%から今年1~3月期に2.8%となり、08年以来の高い伸び率を示した。
求人のサインを掲げる店(ペンシルベニア州フィラデルフィア)=AP
また、別のデータからは、先週の失業手当の申請件数がここ15年間で最低となり、労働市場が厳しい冬を経て再び勢いを取り戻したことが見て取れる。
これらの数値が発表されたのは、米連邦準備理事会(FRB)が1~3月期の景気減速に触れつつも、この後退は一つには悪天候や港湾ストなどの「一時的な」要因によってもたらされたものだと主張した翌日だった。
■FRB、慎重な見方
FRBは、雇用の拡大は「緩やか」で、労働市場における余剰感にほぼ変化はなく、以前述べたようなその緩和は見られないとして、雇用について慎重な見方を示している。関係者は雇用データを引き続き注視し、この減速が年初の不振が夏ごろには良い数値に変わるおなじみのパターンかどうかを確認する見通しだ。
賃金上昇に関しては根拠となる事例がある。ウォルマート・ストアーズ、ターゲット、マクドナルドなどの企業で賃上げが行われて注目されたことに加え、複数の調査からは企業が熟練労働者の獲得に苦戦していることが見て取れる。だが、求人が過去14年間で最高となっても、当局の賃金データは弱いままだ。
PNCバンクのチーフエコノミスト、スチュー・ホフマン氏は、賃金上昇の加速とエネルギー価格の下落が相まって、家計の支出が今年から来年にかけて増えるだろうと述べた。同氏は「高い失業率のせいで労働者の交渉上の立場が弱く、グレートリセッション(大不況)からの回復過程で賃金上昇は遅れていた」とした上で「ここ1年で雇用拡大が加速しており、労働市場がタイトになってきていることから、企業に対する労働者の立場は強まっており、賃金上昇も加速している」と指摘した。
FRBは内在する賃金支払い圧力を測るために労働統計局の労働コスト指数を参考にしている。同指数によると、賃金は1~3月期に全体で2.6%上昇しており、前年同期は1.8%だった。これは10~12月期の2.2%から上昇している。
だが、賃金の上昇は依然としてFRB関係者が健全とする3~3.5%には届かない。データからは大都市間で大きな格差があり、都市により豊かさが異なることが明確になった。
ボストンの3月までの1年間の賃金上昇率は3.9%だった一方、ワシントン、ボルティモア、北バージニアの民間企業の賃金上昇率はわずか0.7%だった。デトロイト、ウォーレン、フリントはさらに低い0.2%だった。
ハイ・フリークエンシー・エコノミクスのジム・オサリバン氏は、インセンティブとしてコミッションを受け取っている労働者を除くと賃金上昇率が低くなると話す。それを適用すると、賃金上昇率は12月の2%に対し、3月は2.1%となる。だが、同氏は新規失業保険申請件数が4月25日までの1週間に3万4000件減少して26万2000件になったことを挙げ、これは労働市場の見通しの堅調さの表れだと指摘した。
同氏は「申請件数が状況を正しく反映しているなら、FRBはやはり今年引き締めを行うだろう。失業率の低下が続くなら、それは時間の問題だ」と述べた。
By Sam Fleming
(2015年5月1日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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