【カトマンズ=共同】ネパール大地震では、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産となっている史跡も甚大な被害を受けた。政府とユネスコは10日までに、首都カトマンズと周辺地域で世界遺産の被害状況調査を開始。寺院など多くの建造物が倒壊し、元通りの修復は不可能との見方が強まっている。文化財を誇りとしてきた市民の間にも落胆が広がる。
ネパールでは5世紀ごろから、ヒンズー教と仏教が混じり合う独自の文化が形成された。標高約1300メートルのカトマンズ盆地には、主に15~18世紀に建てられた歴史的建造物が残り、多くの観光客を魅了してきた。ユネスコは盆地にある、カトマンズ、パタン、バクタプルの3つの古都と、チャングナラヤンなど4つの寺院を世界遺産としている。
ネパール最古のヒンズー寺院とされるチャングナラヤンは、地震で建物の四隅が全て大きく傾き、外側から木材などで支えている状態だ。調査に訪れた文化観光・航空省のアルナ・ナカルミさんは「放置すれば倒壊する。応急処置は施したが、余震が来ればどうなるか分からない」と話す。
同省によると、10日時点で世界遺産を含む480の歴史的建造物が全半壊したことを確認。調査が進めば、さらに数は増える見通しだ。コイララ首相は、損壊した史跡の再建を5年以内に終えると表明したが、ナカルミさんは「無理な目標だ。専門家の数は限られ、被害総額も想像すらできない」と首を振った。
世界遺産では、旧王宮や寺院があるカトマンズのダルバール広場や、れんが造りの建物が並ぶバクタプルも、倒壊などで無残な姿となっている。バクタプルの商店主チラン・ジョシさん(31)は「ただの建造物ではなく、われわれの歴史が崩れ落ちたように感じる。毎日、目にするのは悲しい」と話し、早期の再建を望んでいた。