2016年に出回る国産小麦が値上がりしそうだ。9月に実施された作付け前に実施する入札では、15年産の価格を上回る品種が相次いだ。供給量が安定してきたことで、商品の差別化の切り札として使いたい食品メーカーが国産小麦の使用量を増やそうとしているという事情がある。
国産小麦は、国内の小麦需要の約1割を占める。価格は販売予定数量の3割については作付け前に入札を実施して決定し、残りの7割は入札で決まった価格を指標として売り手と買い手が相対で決める。
販売予定数量などは、生産者団体や需要家団体で構成する民間流通連絡協議会がまとめている。作付け時期の前に、全国の農家の作付意向面積や製粉会社などの購入予定数量を調査。全国米麦改良協会(東京・千代田)が9月以降、数回にわけて入札を実施する。
今年9月に実施された16年産の入札では、パン用の北海道産「ゆめちから」は1トン4万8000円台(税抜き)と15年産に比べ約13%高く落札された。麺類用の品種「さとのそら」なども軒並み1割以上高い水準で落札された。
農林水産省が決めた輸入小麦の政府の売り渡し価格が、10月~16年3月分は1トン5万6640円(5銘柄加重平均、税込み)と4~9月期に比べて5.7%下落するのと対照的だ。
背景には国産志向の高まりがある。農水省の作物統計によると、14年産の小麦の収穫量は全国で85万2400トンと13年産に比べて約5%増となった。15年産の作付面積も14年産を上回る見通し。十分な供給を背景に、新商品などに国産小麦を使う企業が増えたもようだ。
敷島製パンは今年に入って、食パン以外の菓子パンなどでも国産小麦を使った商品を発売した。「20年までにパン用に使う小麦のうち2割程度を国産小麦にする」という目標を掲げる。ミニストップも今年4月、国産小麦を使ったドーナツを店内で発売し始めた。予約の始まった今年のクリスマスケーキでも、「国産小麦使用」をうたうところがある。国産小麦を使うことで商品を差別化し、販売増につなげる狙いもあるとみられる。16年産は「需要が供給を上回る」(昭和産業)との見方も出始めた。
人気の高い北海道産小麦は落札価格も高め(北海道の小麦畑)
収穫量を大幅に増やしにくいことも価格上昇の一因となっている。麦類は水田からの転作作物のひとつ。主な米の産地での麦類への切り替えは一巡し、足元では水田で生産する作物を、食用米から飼料用米に切り替える動きが加速している。収穫量の6割を占める北海道でも「16年産の作付面積は15年産に比べてほぼ横ばい。輪作をしており、大きくは増やせない」(ホクレン農業協同組合連合会)という。
小麦はもともと、雨の少ない乾燥地帯で生産される作物。北海道以外の日本の産地では、収穫時期にあたる6月ごろに梅雨が訪れることで収穫量が減ってしまうこともあるなど、天候の影響による収穫量の変動がほかの作物よりも大きい。足元の相場でも農家にとって積極的に生産する動機は乏しいのが現実だ。供給量が安定しなければ、輸入小麦に再び切り替える動きも出てきそう。製粉会社などが望む安定供給のためにも、一定面積あたりの収穫量の引き上げが求められそうだ。