障害者の通所施設で虐待の疑いに気付き自治体に内部告発した職員が、施設側から名誉毀損などを理由に損害賠償を求められるケースが埼玉県と鹿児島県で起きていることが22日、分かった。障害者虐待防止法では、虐待の疑いを発見した職員は市町村に通報する義務がある。施設側の対応に法曹関係者らから「職員が萎縮して、虐待が闇に葬られてしまう」と批判が出ている。
さいたま市の就労支援施設に勤めていた女性元職員(42)は10月、運営主体のNPO法人から約672万円の損害賠償請求を通知する内容証明郵便を受け取った。
女性は上司の男性職員が知的障害のある男性利用者2人の裸の写真を撮影し、無料通信アプリで送ってきたり、職場の共用パソコンに保存したりしていたため3月に市へ通報。市は施設へ監査に入った。女性が自主退職した後の6月、虐待を認定、改善勧告を出した。
施設側は「女性はテレビ局の取材も受け、他にも虐待があったと虚偽の説明をした」と主張。「外部からの業務受託の予定が取り消され、損害を受けた」として賠償を求めているが、女性は争う構えで、裁判に発展する可能性もある。
鹿児島市の就労支援施設の男性元職員(48)は、6月に運営会社から鹿児島簡裁に提訴された。
男性は同社で働いていた昨年秋、女性利用者から「幹部職員にバインダーで頭をたたかれた」と聞いた。半信半疑だったが、他の利用者に対する虐待の目撃証言が別の関係者からもあったため、2月に市へ通報した。
施設側は虐待を否定。「事実無根の中傷で名誉を毀損された」などとして110万円の損害賠償を求めている。
市は虐待の認定に至っていないが、担当者は「男性がうそをついているとは考えていない。虐待防止法の趣旨からすると、提訴はあるべきことではない」としている。〔共同〕