18日午後に始まった熊本駅近くで脱線した回送列車の1両目を線路に戻す作業=JR九州提供
全線開業5年を迎えた九州新幹線が試練に立たされている。熊本地震で列車が脱線し、高架橋や駅設備などで約130カ所の損傷が見つかった。JR九州の経営が悪化すれば、今秋に予定する株式上場に「赤信号」がともりかねない。18日、記者が沿線を歩いた。
九州新幹線、損傷約130カ所 在来線・高速道路も遮断
特集:熊本で震度7
熊本駅の北側では、沿線の工場の煙突が、高架橋に倒れかかった。煙突はすでに撤去されたが、防音壁が壊れ、高架橋の下にはがれきが散乱。もし新幹線の走行中だったら、と考えるとゾッとする。
熊本駅から1キロほど南には、脱線した回送車両6両がみえる。JR九州によると、新幹線は1両40トン。18日は脱線車両をジャッキで持ち上げて線路に戻す作業が始まった。
熊本市から宇土市に南下する。高架沿いの道路には、至るところに崩れた防音壁の破片が散らばる。その南の宇城市。高架橋の柱に何本もひび割れがみえる。近くに住む女性は「新幹線の壁が落ちてくるなんて考えたこともなかった」と不安な様子だ。
国土交通省などによると、防音壁の落下は約80カ所、高架橋のひび割れは25カ所が確認されている。
脱線現場付近を16日に現地調査した後藤浩之・京都大防災研究所准教授(地震工学)は、見た限りでは「橋脚に目立った被害はなかった」。ただ、JR九州が公表した被害写真も見たうえで、高架橋の柱のひびについては「損傷の程度は今後の検査でわかるだろう」と慎重な見方を示す。
一方、後藤准教授は「このぐらいの揺れで脱線することが、社会として受け入れられるかどうかは議論が必要だ」と指摘する。脱線が起きた14日の地震で、現場から約600メートル離れた所に設置された気象庁の地震計は、震度6弱(揺れの勢いを示す最大加速度は736ガル)を記録したという。
JR九州は、好調な駅ビル経営やマンション販売で稼ぎ、鉄道事業の赤字を穴埋めし、駅の無人化も進め、黒字を出してきた。新幹線の運休が長期化し、赤字見通しとなれば、上場を延期する可能性もある。(角田要、佐藤建仁)