体と心の性が一致しないトランスジェンダーの人は、どちらの性のトイレや更衣室を使うべきなのか――。米ノースカロライナ州と米連邦政府が争っている。同州が3月に制定した「生まれた時の体の性にあわせるべきだ」という州法について、連邦政府は「州法は差別にあたる」と主張。9日にはお互いを提訴した。
州の法律は、同州のシャーロット市が「心の性にあったトイレなどを使えるようにすべきだ」という条例を作ったのをきっかけにできた。マクローリー州知事は「悪用する人がいれば危険が生じる」と市条例を批判。州議会も、公立学校や公共施設のトイレ、更衣室について「体の性にあわせるべきだ」という法律案をすぐに可決した。連邦政府は5月、「公民権法に違反する」と同州に通告したが、州が法律を変えなかったため、提訴に至った。
訴状で州側は「常識的な、プライバシー保護の方針だ」と主張し、州法の有効確認を求めている。トランスジェンダーは公民権法で保護された区分ではないとして、公民権法違反だというなら、連邦議会が同法を改正すべきだとしている。一方、連邦政府は「州法はトランスジェンダーの人を差別して社会的な孤立や疎外を進め、平等でないという考え方を広める」として、無効確認を求めた。
州法の制定以来、複数の企業が同州への進出を断念したり、ミュージシャンのブルース・スプリングスティーンらが公演を中止したりしている。同州は大統領選で接戦が予想される場所の一つ。秋には知事選も予定されている。それぞれの選挙でも争点になるのは確実だ。(ニューヨーク=中井大助)