■蜷川幸雄さんへ 俳優の吉田鋼太郎さんの話
特集:蜷川幸雄さん逝く
俳優の吉田鋼太郎さんの話 蜷川さん、そちらに行ってしまわれる前に、連絡させて頂き、竜也と落ち合ってお見舞いに行かせていただきました。そのときの蜷川さんの姿を見た竜也の顔が忘れられません。母犬とはぐれて雨の中で行き場を失った子犬のような顔をしておりました。
耳元でしゃべりかけると、苦しい息の中、なんとか手を動かして答えようとしてくださいました。「テンペストやろうって言ったじゃないですか」「プロスペローやらしてくれるって言ったじゃないですか」って僕が言うと、少しだけ、目を開けようとしてくださいました。それは渾身(こんしん)の力を振り絞るようにみえました。
蜷川さんはずっとずっと戦い続けてきて、まだベッドの上で戦おうとしていらっしゃいました。僕には到底出来ないことでした。
残り:328文字/全文:690文字