顕微鏡をのぞきながら修理の実習に取り組む受講生。作業の様子はモニターに映し出される=1月、大阪市中央区の大阪府時計高等職業訓練校、笠井哲也撮影
ロレックスにオメガ、ブライトリング――。高級な機械式時計の人気が高まるなか、「時計職人」を育てる職業訓練校の受講生が増えている。クオーツ式の登場で一時は職人の需要が減り、存続も危ぶまれた。近ごろは「手に職をつけたい」と考える若者が自ら、その門をたたくという。
(勝手に関西遺産)時間かけて 技術者育成
教室の壁に時計20台ほどが掛けられ、金属の棒を削る工作機械などが並ぶ。大阪府時計高等職業訓練校(大阪市中央区)。10~40代の男女10人が、機械式時計の心臓部にあたる、渦状の「ひげゼンマイ」の修理実習に打ち込んでいた。
ゼンマイは厚さ0・02ミリ。歯車の回転を制御し、時計の精度を保つ。ひげ玉と呼ばれる中心部を台に固定して回転させ、特殊なピンセットで曲げていく。力の加減ひとつで、ゼンマイの渦がいびつになり、正確な時を刻めなくなる。
「難しいよ、これ」。顕微鏡をのぞきながら、受講生が声をあげた。ゼンマイの渦が広がって失敗。テレビモニターにもその様子が映し出される。白衣の講師がつくる美しいゼンマイの渦には「おおっ」と感嘆の声がもれた。職人歴45年という講師の玉田寿夫(としお)さん(62)は「修理の中でも『究極』の作業。力加減だけは口で伝えられない」と話した。
1959年、時計小売店主らの協同組合が、後継ぎのために全国初の養成校として設立した。現在、授業は8時間の座学や実習で週3回。1年間通って卒業試験に受かると、国の技能検定2級取得に向けた学科試験が免除される。
兵庫県太子町の時計店が生家の玉田さんも、同校の8期生。大阪市立生野工業高校にあった「時計計器科」を卒業し、時計店で住み込みを始めた頃に通った。「時計の修理だけで食べていけた時代。活気があった」