4日のソフトバンク戦で2度のボークを取られた日本ハムのマーティン=白井伸洋撮影
■スコアの余白
ハム・マーティン、動かないで 静止が苦手?ボーク3つ
ボークが多い日本ハム・マーティンを例に、なぜ外国人投手はセットポジション(セット)時の静止が苦手なのかを探ってみた。その理由を、日本野球機構の平林岳・審判技術委員は「米国では盗塁が軽視されているから」と説明した。ここまでが前回。
スコアの余白
盗塁が軽視されると、盗塁を企図することが少なくなる。少ないなら走者への警戒も弱くなる。セットの静止は走者に対し、「牽制(けん・せい)するかも」という意思を伝えるものだ。牽制が少なく、どうせ打者に投げるなら、審判もボークを厳密にとらない。米国では、そんな流れになったという。
実際、公認野球規則でセットの規定を示した「8・01(b)の【原注】」には「走者がいない場合、セットポジションをとった投手は必ずしも完全静止する必要はない」とある。打者だけに投げるのだから、静止しなくてもいい、という考えだ。
しかし、この【原注】の「走者がいない場合~」の部分は日本では適用されない。公認野球規則に記されている。そのため、走者なしで静止しなかったマーティンは反則投球をとられたこともある。なぜ、米国と日本で違うのか。
野球の規則は、まず米国で決まる。日本はプロ・アマ合同の規則委員会で、1年遅れで採用するかどうかを検討する。この【原注】を日本では適用しない、との記載は2007年の公認野球規則で初登場した。
当時の規則委員長、麻生紘二氏は振り返る。「米国は合理的ですね。でも、野球はどうしても投手優位。投手は自分の意図で投げられ、打者も幻惑できる。従来通り、走者なしでも静止しましょう、とプロもアマも見解が一致しました」
日本と米国、野球の歴史や普及の違いも背景にあった。規則委員の木嶋一黄氏は、「米国はまず大リーグ。でも、日本は大学、高校から野球の歴史が始まり、プロへと発展した。アマチュアの大きな底辺がプロを支えているのです」。セットの基本は、まず静止。正しい動作を少年野球から徹底させるため、あえて採用しなかった。
セットポジション、止まるか止まらないか。わずかな違いに、日本と米国の野球に対する考え方が詰まっていた。(山下弘展)