ノムトムムーンは炭火で焼き、1枚ずつ手作業で巻いていく=シエムレアプ、佐々木学撮影
世界遺産のアンコールワットなど世界中の旅行者が訪れる東南アジアの観光地で、日本人が手がけるお土産の菓子が人気だ。現地の食材を使い、形や味に「その土地らしさ」を盛り込む工夫が受けている。土産づくりは地元で雇用を生み、貧困支援にもつながる。
カンボジア北西部、アンコール遺跡に近いシエムレアプの国際空港。免税店の一番目立つ場所に日本人が手がけた2種の焼き菓子が並ぶ。「この二つが一番の人気です」と店員のリン・スレンさん(23)。寺院の形をした「アンコールクッキー」と、ヤシ砂糖を使った「ノムトムムーン」だ。
アンコールクッキーを作ったのは群馬県出身の小島幸子さん(43)。日本語教師兼ガイドとして1999年に当地にやってきた。観光案内をしていたとき、「職場で手軽に配れるお土産は」と聞かれて困った。
日本の観光地なら駅や高速道のサービスエリアに何種類も並ぶのに……。果物は日持ちせず、チョコレートは溶けてしまう。そこでクッキーを思いついた。カシューナッツやハス茶など現地の原料を使い、農村部の貧しい人たちを雇えば「みんなが幸せになれる」と思った。
2004年、2人を雇い、自宅で作り始めた。ナッツの香ばしさとサクッとした食感、ほどよい甘さが特徴で、ブランド名は「マダム・サチコ」。遺跡に通じる主要道に店を移すと、じわじわ人気が上がり、多い日は客が1日1千人を超える。スタッフは今、90人を数える。
現在は、車で約5分の場所に民家を改造した工房を構える。従業員の多くが地方の女性たちだ。手作業で1日計2万3千枚を焼き上げる。3年前、向かいに従業員用の託児所も設けた。唯一の男性のペン・ラタナ工房長(31)は店の運転手から始めた。今は51人を束ねる。1千ドル(約11万円)超の月収は平均的な工場労働者の5倍以上。「クッキーで生活が一変した」
小島さんは「経済成長で都市の雇用は増えた。次は農村」と昨年、近郊の村に37ヘクタールの荒れた雑木林の土地を確保。農園に変え、村人を雇って無農薬の野菜や果物を育てていく。将来は宿泊施設をつくり、観光客に収穫体験をしてもらう。事業パートナーのフート・ソティさん(38)は「貧しかった村に仕事が生まれれば、村人はタイやマレーシアに出稼ぎに行かなくて済む」と期待する。