共同監督の牧原依里さん(右)と雫境さん=東京都渋谷区、寺尾佳恵撮影
無音の中にあふれ出る「音楽」とは――。耳の聞こえない聾者(ろうしゃ)たちによるアート・ドキュメンタリー「LISTEN リッスン」(上映時間58分)が、東京都渋谷区の「UPLINK」で上映中だ。聾者15人が、手や身体の動き、表情で音楽を表現する。
上映前、観客には耳栓が配られる。無音映画なのに、なぜ。
共同監督の牧原依里(えり)さん(29)と雫境(だけい)さん(45)は聾者。ふだん、音のない世界で、手話で会話をしている。2人は「服の擦れる音や空調の音もなるべく減らして、音のないところで見てもらいたい」と語る。
映画に明確なストーリーはない。出演者の横尾友美さん(29)は言語的な要素を抑え、耳が聞こえる「聴者」の世界で生きる聾者の叫びを表すように、広い海辺で鳥のように舞った。
風や雨、花火など、次々と季節の様子を表現していく米内山(よないやま)明宏さん(64)による手話詩(サインポエム)「四季」は言語的な要素が強い。
1人の動きをまねて次々とメンバーが加わり、数人で手や身体を動かす場面は「合奏」のようだ。音はないはずなのに、頭の中にはメロディーが響くような感覚に陥る。