出版した「まんがで知る教師の学び」を手にする前田康裕教頭。左手に持つのは「ネーム」と呼ばれる下絵=熊本市立向山小学校
教師たちが成長する姿を、教師自身が漫画で描いた本が注目されている。著者は熊本市の小学校教頭。発売が4月の熊本地震の直前で、予定していたPR活動は全て中止になったが、すでに初刷り3千部が完売した。
本は「まんがで知る教師の学び これからの学校教育を担うために」(さくら社)。熊本市立向山(こうざん)小学校の前田康裕教頭(54)がストーリーを練り、描いた。中学・高校の美術教員免許を持つ腕を生かした。
舞台はある小学校。病気のベテラン教師の代わりに赴任した臨時採用の50代男性教員が主人公だ。「学び」を「何かに気づき、自分が変わること」と定義する主人公。そんな主人公の周りで、教師たちは失敗するたび何かに気づき、変わり、成長していく。
教師たちの失敗例は「全部、私の体験」と前田教頭は笑う。時間管理ができなかったり、保護者の苦情に悩んだり。30年余りの教員生活で味わった苦みも喜びもリアルに描いた。
新しい授業を次々に提案して周りの教師に疎まれ、研究主任を突然おろされる主人公の若き日の挫折も、自ら経験したことだ。主人公は一度辞めて臨時教員として復職する。
前田教頭は、市教委の教育センターで教師塾の講師を務めた。そこで伝えてきた教育理論を、たくさんの人にわかりやすく伝えたいと、漫画を思いついた。東京の教育書出版社「さくら社」に相談し、向山小に赴任した昨春から、休日にコツコツと執筆。1年で描き上げた。「教師は常に学び続けて」との思いを込め、各章ごとにビジネス書を紹介するコーナーもつけた。
本が書店に並んだ直後の4月、熊本地震が起きた。向山小も避難所となり、前田教頭は校長と交代で泊まり込んだ。予定していた熊本県内でのPRはすべて中止に。だが内容の濃さと物語の奥深さがインターネット上などで話題になり、教員ではない人からも注文が相次いだ。初刷り3千部がすでに完売。5月下旬に3千部を増刷した。さくら社は「教育書では異例のヒット」としている。
前田教頭は「地震で大変な状況だからこそ、しっかり未来を見て、社会を作っていくことが大事」と話す。近く続編の執筆に取りかかる予定だ。
A5判176ページ、税抜き1800円。問い合わせはさくら社(03・6272・6715)。(渡辺純子)