憲法案国民投票に向けた啓発ソングの東北部のパートを歌う場面=国家選管のユーチューブチャンネルから
クーデター後の軍事独裁体制が続くタイで、民政復帰への第一関門となる新憲法案の国民投票に向けて政府が作った啓発ソングが物議を醸している。歌詞の一部が、タクシン元首相支持層(赤シャツ)に対して差別的だという批判が強まっているためだ。
国民投票は8月7日に予定され、政府は5月から憲法案の周知運動を開始。国家選挙管理委員会が投票を呼びかける歌を作り、ユーチューブで公開した。「8月7日 民主主義のために国民投票で団結を」と題する歌は、タイの大衆音楽(ルークトゥン)界の大御所、プラヨン・チューンイェン氏作曲。広く国民に投票を呼びかけるため、北部、中部、東北部、南部それぞれの出身の歌手が方言で歌う趣向になっている。
ところが、中部、南部は「憲法は国民和解の基礎」(中部)、「投票してよき市民になろう」(南部)などと当たり障りのない歌詞なのに対し、タクシン派最大の票田である東北部やタクシン一族の出身地である北部は一転、「誰にもだまされてはならない」(東北部)、「誰かに導かれてはならない」(北部)などと警告調の異質な歌詞に。「誰か」はタクシン氏、あるいはタクシン派幹部を指していると受け取れる。
新憲法案は選挙で選ばれた下院や内閣の権限を弱める一方、軍が影響力を強く残す内容で、軍部は選挙に強いタクシン派を憲法で抑え込むことを狙っているとされる。この歌でどんな効果を狙ったかは不明だが、「北部、東北部の者を見下しているのか」といった声が強まった。選管は14日、「特定の人びとを侮辱する意図はない」としつつも、歌詞の変更を検討する方針を明らかにした。(バンコク=大野良祐)