鈴木さんが描いた南阿蘇村の土砂崩れ現場。左端にアジサイを描き入れた
熊本地震の被災地を歩き、記憶を絵筆で残そうとする油絵画家がいる。埼玉県所沢市の鈴木誠さん(43)。東日本大震災の被災地を40回以上訪ね、120枚の油絵を残していて「震災画家」を自称する。「描きたいのは惨状ではない。復興に進む姿です」
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熊本地震 災害時の生活情報
鈴木さんはすでに熊本県の被災地を2回訪れ、油絵を10枚仕上げた。熊本地震の発生から1カ月にさしかかった5月中旬には4日間滞在。熊本城東側の熊本大神宮や、阿蘇市の阿蘇神社、損壊した宇土(うと)市役所などをレンタカーで回り、痛々しい姿と向き合って絵筆を走らせた。変わり果てた風景を描く自らの姿が「不謹慎」と映らぬよう、竹やぶの裏に身を隠して街並みを見つめたこともあった。
そんな後ろめたさも抱きつつ、6月4日に再び熊本に入った。5日、震度7の揺れが2回も襲った益城(ましき)町で、家屋が崩れ落ちた街並みを訪れた。がれきが無残に積み上がった様子の中に、損壊を免れた地蔵も描いていた。
すると、近くで自宅が壊れた無職の林清治さん(76)が通りかかり、鈴木さんに語りかけた。「この地蔵さんは地域の守り神なんだ。1歳3カ月の孫と毎日お参りしていた。だから、命だけは救われた。しっかり描いてくださいね」
絵に被災地の人々の思いを込め、復興を願う――。そんな信念で描き続ける鈴木さんは「受け入れてもらった」と感じたという。