飛び六方で花道を引っ込む菊月喜千寿さん=6月19日、東京・浅草、三すじ会提供
義足で舞台に立ち続ける歌舞伎役者がいる。日本舞踊家でもある菊月喜千寿(きくづききちじゅ)さん(55)。右足をひざ下から失い4年。「失ったものを悲しむより、残されたものを喜ぶ方が、人生はずっと幸せだ」。6月、悲願の「勧進帳」弁慶を舞った。
山伏に変装した義経と弁慶の一行。それを見破る富樫。緊迫した応酬の果て、弁慶が片足ずつ踏む「飛び六方」で、力強く花道を駆け抜ける晴れやかな幕切れに、客席から大きな拍手がわいた。
6月19日、東京・浅草公会堂。再び幕が開き、正座で深々と頭を下げる菊月さんの目がうるんだ。「ありがとうございます」。劇中、義足が汗で滑り、1度外れかけた。気付かれないよう付け直したが、飛び六方で再びゆるんだ。「花道に足を残しちゃいけない。もってくれ、もってくれ」。祈る気持ちで踏み続け、「相棒」は期待に応えてくれた。
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