母校の壮行会で正装姿の山本篤選手。短パン姿であえて義足を見せている=7月、大阪体育大学
リオデジャネイロ・パラリンピックで17日(日本時間18日)、陸上男子走り幅跳び(切断など)で銀メダルを獲得した山本篤選手。400メートルリレーの銅に続き、今大会2個目のメダルを獲得した日本のトップアスリートですが、フォーマルな場所ではスーツを着こなします。ただ、山本選手の正装はネクタイやジャケットを着ているものの、下は短パン姿。あえて左足の義足が見える状態にしています。
リオパラリンピック
山本篤、悲願「金」まであと8センチ… 走り幅跳び
山本篤特集 常識を超える力
走り幅跳び決勝の2日前、山本選手は記者団に囲まれていました。調子を尋ねられると「練習しないんで、分からない」。走り幅跳びの練習をしないことで知られる山本選手ですが、リオでも歩幅の確認程度にしていたようです。「砂場は嫌い。汚れるから」。そんな理由もありますが、「本番のように気持ちが入らないと飛べない」からだといいます。
17日の走り幅跳び決勝。山本選手は自己ベストに並ぶ6メートル62を飛びましたが、狙っていた金メダルには及びませんでした。
そんな山本選手を激励しようとリオ大会前の7月、母校の大阪体育大学で激励会がありました。上半身は正装ですが、下半身は半ズボン。義足が裾からのぞいています。どうして、こうした格好をしているのでしょうか。
「長ズボンだといちいちズボンをめくって義足を見せないと、陸上アスリートと分かってもらえない。半ズボンの正装があればすごくいい」。6月に東京であったスポーツ功労者への表彰式でまず実践しました。250人ほどが集まる大きな会でしたが、出席した鈴木大地スポーツ庁長官や当時の馳浩文科相から「これは日常の義足だよね」「ソケット部分はいたくないの」と声をかけられ成果を実感できたようです。
山本選手は障害者スポーツが今ほど競技志向がなかった10年以上前から、独自の走りを追求してきました。いわば義足スプリンター界をリードしてきた先駆者です。半ズボンがフォーマルな席にふさわしいのか――。山本選手本人もその辺は気にはしていますが、「義足の選手はそれが普通になってくれればすごくいいなと」。さまざまな常識を打ち破ってきた、山本選手らしい「挑戦」なのかもしれません。
とはいえ、冬はどうするのでしょうか。
「迷いますね。どうしようかな、我慢ですね」
人なつっこい笑顔を見せていました。(向井宏樹)