朝日新聞デジタルのアンケート
フォーラム面では、休日が極端に少なく長時間練習が続く中学校の「部活漬け」の問題をみなさんと考えてきました。今回は、現場の状況について投稿を寄せた教員と、部活動に適切な休養日を設けるガイドライン作りを進める文部科学省の担当者に聞きました。「ホントに休養日は確保できますか?」「実現への課題は何でしょうか?」
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■集団主義が背景 教員の声
私立の中高一貫校に勤務する教員(中学生担当)です。学校は部活動の実績を売り物にしており、運動部のほとんどが全国大会を目指して長時間練習に励んでいます。
勉強との両立に不安を感じて退部する生徒もいますが、「脱落者」として扱われ、学校に居場所がなくなる生徒も少なくありません。
教員の負担も相当なものです。週末も休日も返上して試合の引率にかり出されるのは、子育て世代の教員とその家族にとって非常につらいものです。天気の良い日曜日に、子どもから「仕事に行かないで! お父さんと遊びたい」と言われ、「ごめんね」と言い残して試合に出かける切なさは筆舌に尽くしがたいものがあります。
活動時間の長さは授業にも影響します。生徒が主体的に活動する授業が求められる時代ですが、この形態は、より準備に時間がかかります。部活動で忙しい時は、教材準備に十分な時間が取れず、教師が一人でしゃべり、生徒はひたすらノートをとる旧形態の授業に陥ることが多くなります。
休養日確保は簡単ではないでしょう。自己犠牲が伴う集団主義の中で、協調性や忍耐力など社会で生きていく力を鍛えるために部活動は不可欠、という思想が強いこの国で、部活動のトーンを緩めようとする提案はかなり勇気のいることです。
また、画一的な指導要領の下で教えたいことが自由に教えられない教育事情も、この部活熱を生み出す要因になっています。部活動では自分で創意工夫してやりたいように指導できるため、教科よりやりがいを感じる教師が多いのです。
教師が本来やるべき仕事である教科教育にやりがいを見いだし、それに専念できる環境をつくる一方、スポーツ競技力向上の方法は地域のクラブや専門機関など、学校に頼らない形で模索しなければ、文科省がガイドラインを設けたところで、現場が従わないと思います。
(関東 30代男性)
■文科省は「本気」か
部活動の活動時間は長すぎると感じても、長時間の活動を良しとする一部の人(顧問、生徒、保護者)の意見が通ってしまいます。
私が教員として勤める中学校でも、「部活動 命!」みたいな先生が顧問になると異常なほど長くやります。1997年の文部省(現文科省)の有識者会議で「土日に実施する場合は3~4時間で練習を終えること」がめどとされたはずなのに、午前9時から午後5時まで活動している部もあります。反対に土日の活動をやらない顧問だと、生徒や保護者から苦情が来ます。
休養日確保は、単なるガイドラインだときっと守られません。以前から休養日の必要性は指摘されてきたのに、守られていないからです。「文科省の本気」次第だと思います。様々な通達を学校に出して守らせてきたのに、この問題にだけは「本気」がないような気がします。(埼玉県 50代女性)
■「居場所」がわりに
部活漬けの背景には、地域と家庭の教育力が落ちて、子どもを学校で抱え込まざるを得ない状況があるのだと思います。
中学校の先生からは「部活動で居場所を作ったり、暇がないようにしたりしなければ非行に走る生徒が増えるので、部活動の時間は減らせない」という話を聞きました。
私は小学校教員ですが、小学校の特別クラブ(中学校の部活と同じもの)も朝練習が年々増えています。
保護者も保育サービスのような意識で部活や特別クラブを利用しようという方が多い実感があります。
教職員が子どもの未来を一生懸命に考えれば考えるほど、休養日確保は実現不可能だと思います。
(横浜市 40代女性)
■法で罰則定めて
岩手県では2011年に、部活動について、「2週間に1~2日以上は休養日を設定すること」という指針が出ています。確かに現場でこの指針は守られており、月2回の休養日は設定されています。しかし、それ以外はすべて練習を行うのが当たり前という風潮があり、部活動を休みなく行う教員が高い評価を得る雰囲気が職員室にはあります。
また、岩手県では公立中の97.9%が「原則として全生徒入部」(10年調査)という名目の下、部活動加入を義務づけています。
休養日はあくまでも顧問の裁量によります。文科省がガイドラインを下ろしたとしても、部活動に力を入れる顧問ほどガイドラインを無視すると思われます。休みなく部活動を行う顧問に、何らかの罰則を与えるくらいの法整備が必要であると考えます。(岩手県 20代男性)
■休みの必要性、データで示す
適切な部活動の運営をめざす新ガイドラインについて、文科省の外局として運動部を所管するスポーツ庁の高橋道和(みちやす)次長に聞きました。
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日本の教員は大変忙しい、業務を適正化しなくてはならない。これは文科省全体の認識です。そのためにタスクフォース(作業チーム)ができ、その議論から出てきたのが、新しいガイドラインを作るという提言です。
教員の負担になっているのは、部活動ばかりではありませんが、かなりの部分を占めるのは間違いない。訴える教員の声もいろいろなところから聞きます。ただ、国として実態をしっかり把握できてはいません。客観的なデータをしっかり集め、それを基にガイドラインを作ろうというのが、今回の考え方です。
毎年、すべての小中学校を対象に「全国体力調査」を行っていますが、これに今年、部活動の休養日についての項目を初めて盛り込みました。年内に結果がまとまり、休養日をどのくらいの学校が設定しているのか、何日なのかといったことの概要が分かります。
さらに来年度、サンプル調査を行って、校長、顧問、生徒、保護者、外部指導者に、より掘り下げて聞きます。休養日は履行されているか、実際はどの程度の休みが必要だと思っているのかなど、まさに実態を把握したいと思います。
また、教員だけではなく、生徒にとって望ましいあり方という視点も欠かせません。発達途上の子どもにはどの程度休みが必要なのか、最新のスポーツ医科学の知見を生かしたいと思います。
休養日については、1997年に有識者会議の報告書が「中学は週2日」といった設定例を示しました。しかし、実際は設けられていない、守られていないという指摘が一部あります。今回の調査できちんと見極めますが、そこを国が規制するというのは、自主的活動である部活動の本来の在り方とは違うと思います。
今回のガイドラインは、調査や医学的なデータに基づいて説得的なものを示せればと思います。部活動への考え方は、教員や生徒、保護者の中でもさまざまです。学校現場がその気になり、熱心な保護者や生徒もなるほど休みは必要だと思えるようなら、実効性は高まるでしょう。
教員の負担を軽減するには、さらに外部の指導員の配置や普及を図るという方法もあります。生徒にとっても専門的な指導を受けられるといった利点があります。国として制度の整備を進めたいと思います。(聞き手・片山健志、村上研志)
■体質変革へ、親が機運づくりを
教員からは、休養日確保に国の強い姿勢を求める声が出ました。一方、自主的活動である部活に規制を加えることはふさわしくないという文科省の見解も、もっともです。
とするなら、制度とは別に、部活の体質変革に向けた私たち親世代による機運づくりが、子どものためにこそ必要かもしれません。7月1日付の紙面で紹介した母親の「部活漬けの子どもは企業戦士の父親と同じにみえる」という言葉が忘れられません。一つのことをやりきることと、そのこと以外にも関心を持ち、部活以外の友人、家族と過ごす時間を大事にすることは、両立すると思うのです。(編集委員・中小路徹)
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