高校野球を観戦するガレッジセールのゴリさん=12日、阪神甲子園球場、高橋雄大撮影
■甲子園観戦記
動画もニュースも「バーチャル高校野球」
うおおおおお! すげえ……。
これが甲子園か。仕事で毎週大阪には来るけど、ここに来るのは初めて。第2試合の観衆は4万6千人だって。360度、観客に囲まれて。圧倒的スケールであまりにステキすぎる「劇場」です。
高校時代はサッカー部。野球と接する機会はほとんどなかったけど、昨年撮影した映画を通じて縁ができました。「沖縄を変えた男」。1990年、91年と2年連続で沖縄水産を夏の甲子園で準優勝に導いた、栽弘義監督(故人)をモデルにした映画です。主人公の栽さん役を演じました。
その中で、印象に残っているシーンがあります。栽監督が2、3年生に向かって「お前ら、やめてくれ」と言うんです。有能な1年生を試合で使いたいからなんですけど、これが本当の話なんです。栽さんは2、3年生の自宅を回って説得したそう。誰にだって甲子園を目指す権利はあるのに、それを奪う。最初に聞いたときは、ゾッとしました。
ただ、当時の沖縄県民にとって甲子園で勝つことはそれだけ大きなことだった。戦後、沖縄の人は「内地」へのコンプレックスや敵対心を持っていた。甲子園で勝つことで「ほれ見たか。強いだろ」と。あの準優勝は沖縄全土に自信とエネルギーをくれたんです。
九回裏、松山聖陵のピンチ。一つのプレーに観客がどよめく。球場が騒ぐほど、マウンドのアドゥワ君にかかる重圧は大きくなる。17歳には酷で、かわいそうだなとも思う。あの子の親の気分になると、胃が裂かれそうです。
僕にも中学1年の息子と小学5年の娘がいます。息子はバスケットボールをしていて、小学6年の最後の大会でなかなか勝てなかった相手に勝って優勝したんです。
あの時、親たちが練習を必死に手伝いました。僕も仕事の後で疲れていても、息子のドリブル練習のディフェンス役をしたり。試合後は「感動をありがとう!」と泣きながら息子を抱きしめました。
小学生の大会でさえ、そうなんだから、ここに出てきた選手の家族はどれだけの思いで子どもたちをサポートしてきたか。これはもう「愛」と「愛」の戦いですよ。
アドゥワ君はあと一つのアウトが取れずにサヨナラ負け。僕が親ならこう声をかけるかな。「負けても、これだけの観衆を応援させ、興奮させた。17歳でこれだけの人の心を動かせるなんてお前は幸せな人生を生きているぞ。これが終わりじゃない。これからの人生のほうが長いんだから」(構成・山口史朗)
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〈ゴリ〉よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属のお笑い芸人。1972年、沖縄県生まれ。川田とのコンビ「ガレッジセール」で95年にデビュー。座長を務める「おきなわ新喜劇」が14年にスタート。