マリオ&ソニック AT リオオリンピックTM=任天堂提供 (TM IOC/RIO2016/36USC220506. (C)2016 IOC. (C)NINTENDO. (C)SEGA.)
オリンピックのワクワクと感動を、見ているだけでなく自分でも感じたいならテレビゲームの出番。私たちを楽しませてくれる一方で、作り手側には「オリンピックゲームならではの難しさ」もあるとか。全世界でシリーズ累計2600万本が売れている代表的なオリンピック公式ソフト「マリオ&ソニック」シリーズの場合を聞いてみました。
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任天堂の「マリオ」とセガの「ソニック」。両社を代表するキャラクターが競演する――。それが「マリオ&ソニック」シリーズの最大の特徴。きっかけはオリンピックだった。
「競演はずっと検討されていましたが、なかなか実現できずにいました」。セガゲームスの大橋修・コンシューマコンテンツ事業部長はそう話す。なぜ競演するのか、明確な理由がないとそれぞれの熱狂的なファンに納得してもらえない。
そんな時、セガがオリンピックの公式ゲームを作るライセンスを独占契約した。「オリンピックという誰もが知っている舞台なら、両キャラクターの競演に最もふさわしい。そういう流れからゲーム化が一気に実現しました」。
北京オリンピック前年の2007年、「マリオ&ソニック」シリーズの最初のソフトである北京オリンピック版が年末に登場。現在までに世界中で1千万本を売り上げる大ヒットとなり、その後のシリーズ化を決定付けた。
大成功した競演だが、実現は簡単ではなかった。大橋さんは「キャラクターには細かい設定があり、それをどう守るかがたいへんな作業でした」という。
たとえばソニック。抜群の運動能力を誇るキャラだが、実は設定上「泳げない」ことになっている。では、競泳に出場させるにはどうするか。
考え出された解決策はこうだ。まずプールでは、ソニックにライフジャケットを着させる。さらに泳ぎ方。ほとんど立ち泳ぎのような状態をキープし、「絶対に顔を水につけないようにした」(大橋さん)という。
マリオも同じだ。任天堂企画制作部の野中豊和・部長代理によると「どんな時でも帽子と服は脱がない」という設定がある。競泳であろうが炎天下のビーチバレーであろうが、この設定は貫かれた。
一方で、キャラクター側が「譲歩」する場合もある。マリオ同様、ずっとオリジナルに近いドレスなどの服装を貫いていた「ピーチ姫」が、ロンドン版では水着風のコスチュームで登場。以降はこの新しい服装が定着した。
キャラクターに競技をさせる際、どんな記録なら許されるかという調整も重要だ。ソニックだからといって100メートルを5秒台で走ったり、ルイージだからといって走り高跳びで5メートルをクリアしてしまったりすると、オリンピックの雰囲気が台無しになってしまいかねない。
「どのあたりまでの設定変更ならファンの方々に受け入れてもらえるか。試行錯誤は今も続いています」(野中さん)という。
街や会場の様子を再現し、オリンピックの雰囲気を伝えるのも「公式ゲーム」の重要な役割。ところがオリンピックでは競技会場が新たに建設されることも多いため、ゲーム内で再現するのも一苦労だという。
「事前に現地に行っても、まだ建設中というケースはしょっちゅう。『建設予定地』と書かれた看板しかなかったこともありました」と大橋さん。建設計画のデータなど手に入る範囲でベストを尽くし、競技場が出来上がるまで何度も修正を重ねることによって、何とか今のリアルさを実現しているという。
新しい競技が増えることも話題になるオリンピックだが、一方で昔からずっと続く人気競技も多い。前回のソフトでも遊んだことがある競技を、次のソフトでもいかにユーザーを飽きさせず楽しんでもらうか。この点もゲーム制作者の腕の見せどころだ。
任天堂企画制作部の大西良明さんによると、今回のリオ版では「あえてシンプルなボタン操作にこだわった」という。たとえば100メートル走は、とにかくボタンを連打するというシンプルそのものの操作に。「普段あまりゲームはしないという方にも楽しんでいただけると思います」。
また、様々な競技がまとめて収録されているのもオリンピックゲームの特徴。野中さんは「これまで知らなかった競技に触れ、楽しさを知ってもらうきっかけにしてほしい」。
大橋さんは「ゲームで競技の楽しさを知った人が実際に競技にうちこみ、その後、本物のオリンピックでメダルを取る――そんな夢がいつか実現すれば、ゲームの作り手としてはこれ以上の喜びはありません」と話している。(田之畑仁)