観戦するライターの梅津有希子さん=16日午前、阪神甲子園球場、内田光撮影
■甲子園観戦記 ライター・編集者 梅津有希子さん
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緑の芝に黒い土、白い洋服で染まったスタンドに青い空。そして吹奏楽の音色。訪れるたび、甲子園の雰囲気には圧倒されます。
母校の札幌白石高は在籍当時、吹奏楽が強かった。私は木管楽器のファゴットを担当していました。「高校野球ブラバン応援研究家」を名乗っていますが、私の学校は当時野球部があまり強くなくて、実は応援に行ったことがないんです。
取材をするようになったのはここ5年のことです。甲子園での応援を夢見る吹奏楽部員を描いた漫画「青空エール」は母校がモデルで、私が監修をさせていただきました。そこでブラバン応援の魅力にとりつかれました。
第1試合の嘉手納―明徳義塾戦は、どちらも個性的な応援です。
沖縄代表の応援は毎年、甲子園の地元・市尼崎の吹奏楽部が担います。「ハイサイおじさん」が始まった。みんな指笛を吹き、笑顔で踊ってる。メガホン代わりにゴーヤを振り上げる人! 聞いてみると、ゴーヤは「沖縄の魂」ですって。続いてダンス曲「サンバ・デ・ジャネイロ」。最近のトレンドで、みんな「アゲアゲホイホイ!」の合いの手。八回に反撃して、最後まで盛り上がってますね。
明徳の応援には毎回、マーチングバンド部の先生の音大時代の仲間、そしてその知り合いが集まるんです。よく聴いてみて下さい。「ポパイ」「必殺仕事人」といったおなじみの曲が多いんですけど、トランペット奏者同士でハモったり、1オクターブ上げたりというアドリブが入ります。最初は遠慮がちだったけど、終盤になると回数も増えてきた。定番曲でも明徳ならではのアレンジがいい。甲子園での高校野球はグラウンド内だけのイベントじゃない。スタンドも含めた壮大なお祭りなんですよね。
今大会ここまで最も印象的だったのは東邦の応援です。最近はあちこちで聞きますけど、プロ野球千葉ロッテの応援歌を多用し始めたのはこの学校です。演奏が上手なのはもちろん、リズムに合わせて演奏者が体を左右に揺らすパフォーマンスも光ります。大逆転勝ちした八戸学院光星戦の九回は、球場全体が東邦を応援していました。高レベルのブラバン応援が球場全体の雰囲気を作ったのかも。
応援する側、される側が「自分たちの曲」を共有していると、「さあいくぞ」って感じで、どんな状況でも自信が湧いてくる。甲子園では音楽の力を実感します。(構成・有田憲一)
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うめつ・ゆきこ ライター・編集者。1976年、北海道生まれ。札幌白石高では全日本吹奏楽コンクールで2、3年時にメンバーとして演奏し、金賞に輝く。近著に「ブラバン甲子園大研究」(文芸春秋)。