SLの運転免許取得へ向け秩父鉄道で訓練中の真壁正人さん(右)ら=埼玉県秩父市、高山顕治撮影
東武鉄道が来夏、蒸気機関車(SL)を半世紀ぶりに復活させる。走るのは、栃木県日光市の12・4キロ。技術や設備は東武にはないものの、SLを後世に残そうと、全国の鉄道会社8社が乗務員の養成や車両の提供で協力する。
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6月、埼玉県熊谷市の秩父鉄道広瀬川原車両基地。SLの運転席で東武鉄道の運転士、真壁正人さん(48)が石炭をボイラーに投入し、水量などを調整するバルブをひねった。煙突から黒い煙が噴き出した。
SL「パレオエクスプレス」を埼玉県で運行する秩父鉄道の千代田昌巳指導助役(48)が指導する。「経験がものを言う世界。坂での操作などを徹底的に覚えてもらいたい」
真壁さんは「SLはブレーキのかかり方が違い、走り出す時の操作も多い。石炭の入れ方で動きも変わる。生き物みたいで、やりがいがある」と話した。
東武鉄道は1899年にSLの運行を始め、最盛期の1947年に60台を保有したが、66年に廃止。昨年、文化遺産の復元や地域活性化へ復活を表明した。
とはいえ、社内にSLの技術はなく、秩父鉄道などSLを運行する他社に協力を依頼した。「SL文化を伝承したい思いは同じ。SLがもっと注目されれば、全体にメリットもある」(秩父鉄道の広報担当)。
今年1月以降、SLを運行する秩父鉄道やJR北海道、大井川鉄道(静岡)、真岡鉄道(栃木)に社員18人を派遣し、運転や検査技術を学ぶ。車両はJR北から41年製造の「C11形207号機」を借り、車掌車、客車、ディーゼル機関車はJR貨物、西日本、四国、東日本の各社から調達する。
予定では、SLは6両編成で東武鬼怒川線下今市―鬼怒川温泉駅間を約35分で結び、土日祝日を中心に最大で年約140日、1日3往復程度運行する。客車は3両で計200人が座れる。下今市駅は昭和レトロ風の建物に改築し、SL見学場所もつくる。東武鉄道広報は「SLをきっかけに日光周辺の訪問客が増えれば、関連するホテルやバス事業も潤う。トータルで黒字化したい」としている。