壁からはがれ落ちた明治期のタイルを手にする大社湯の牧田智子さん=22日午前9時59分、鳥取県倉吉市、橋本弦撮影
100年以上前、鳥取県倉吉市の中心部に建てられた国登録有形文化財の銭湯「大社(たいしゃ)湯」が、地震の被害を受けて存続の危機に立たされている。建築当時のまま残されていた浴室のタイルが大量にはがれ落ちたためで、切り盛りする夫婦は途方に暮れている。
大社湯は1907(明治40)年ごろに営業を始めた。木造2階建てで、大正、昭和の時代に増改築をしながらも、明治の公衆浴場の趣を残す。腰壁はレンガ造り。大きな木造の番台があり、浴室にはタイルが一面に貼られている。常連客は今も多く、地元の憩いの場として知られている。
1943年、今の鳥取市を震源とする鳥取地震(マグニチュード7・2)でもびくともしないほど丈夫だったという。
倉吉市を震度6弱の地震が襲った21日午後2時すぎ、切り盛りする牧田慎太郎さん(79)、智子(さとこ)さん(79)夫婦は、開店に向けて浴室の掃除をしている最中だった。大きな揺れに慌てて外に飛び出すと、浴室からガシャンガシャンという大きな音。戻ると浴室のタイルがあちこちではがれ落ちていた。慎太郎さんは「こんな光景が広がるとは思わなかった」。
タイルは明治時代の特注品とされ、どうすれば修復できるか考えもつかないという。近年は燃料費の高騰もあり、経営は苦しかった。昨年にはボイラーが故障して一時休業したが、貴重な銭湯を残そうと倉吉市が半額を出資して修理。再開した矢先の被害だった。
余震も続いていることから「お客さんに何かあったらいけない。今は安心できる状況じゃない」と智子さん。21日も大阪から旅行中の夫婦が訪ねてきたが、智子さんが「こらえてなぁ」と言って帰ってもらったという。当面は休業するが、慎太郎さんは「もしかしたら営業をあきらめざるを得ないかもしれない」と肩を落とした。(柏樹利弘)