法務省が11日、熊本県内の強盗殺人事件の死刑囚の刑を執行した。日本弁護士連合会が10月の人権擁護大会で、「2020年までに死刑制度の廃止を目指す」とする宣言を採択してから約1カ月。関わった弁護士らは驚きの声を上げた。
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記者会見した金田勝年法相は、裁判員裁判を経て確定した事件の死刑を執行したことについて「判決は、慎重な審理を尽くして言い渡すものと承知している。判断を尊重しつつ、慎重かつ厳正に対処すべきという観点から命令を出した」と説明。日弁連の宣言については「死刑の存廃に様々な意見があり、そのような意見の一つと考えている。国民の多数が死刑をやむをえないと考えており、廃止は適当ではない」と語った。
「ショックだ。日弁連が何を言おうと執行は続けるという法務省の固い決意を感じる」。日弁連死刑廃止検討委員会のメンバーの海渡雄一弁護士は憤りを見せた。「死刑廃止国では、廃止の前に執行を停止した期間があり、まずそれを実現するのが目標。壁は高いが、宣言を機に死刑についての議論が活発化しているのは確かで、あきらめないでやるべきことをやっていきたい」と話した。
宣言は、死刑判決が確定していた袴田事件で14年3月に再審開始決定が出たことなどが背景にある。日本に制度廃止を勧告した国連の会議が日本で開かれる20年までの死刑廃止を目指すとしている。関係者によると、日弁連は会長が法相に直接宣言を手渡したいと申し入れているが、なかなか日程が決まらない状態だったという。
一方、犯罪被害者の支援に取り組む弁護士を中心に、宣言には反対の声も根強い。反対を表明してきた弁護士団体「犯罪被害者支援弁護士フォーラム」の事務局長を務める高橋正人弁護士は「死刑廃止は立法の話で、日弁連が目指すと言っても廃止されたわけではない。死刑は法律で定められ、最高裁でも合憲とされている。淡々と執行するのは当然のことだ。日弁連は死刑執行後に毎回反対声明を出すが、法を守るなというのはおかしな話だ」と話した。(千葉雄高)