夕食後、だんらんする(左から)近藤音輝さん、康恵さん、未羽さん=2日、川崎市、金居達朗撮影
■小さないのち
かつて育児放棄(ネグレクト)寸前だった赤ちゃんを養子に迎え、育てている女性がいる。いま中学生になった息子には、小さい頃から包み隠さず話してきた。
特集「小さないのち」
11月上旬、記者が川崎市の保育士、近藤康恵さん(52)宅を訪ねると、近藤さんと息子の音輝(おとき)さん(13)が並んで数学の勉強をしていた。その後は一緒に夕食の準備。音輝さんは食事中、妹の未羽(みう)さん(10)に学校での出来事を話したり、アボカドの大きな種を口に入れて笑ったり。3人でにぎやかに食卓を囲んだ。
近藤さんが音輝さんのことを知ったのは、誕生から3日目だった。
「どうしても息子を育てられない。里親になってもらえませんか?」
当時、なかなか子どもを授からなかった近藤さんは、ネット上の「里親ブログ」でこんな書き込みを見つけた。何度かメールでやり取りした後、女性と音輝さんに会った。
20代前半の女性は虐待を受けて育ったと話し、自殺願望があること、音輝さんを虐待してしまうのではないかと感じていることなどを打ち明けた。女性の虐待を心配していた夫からも「息子をよろしくお願いします」と頼まれた。近藤さんは音輝さんを引き取った。メールやはがきで音輝さんの様子を女性に伝えると「みんなに愛されてうれしい」と返信がきた。
約1カ月後、女性から「やはり育てたい」と連絡があり、音輝さんを女性のもとに連れていった。音輝さんのためには良かったと思おうとした。でも、食事ものどを通らなくなった。
成長したら見せてあげようとつけていたノート。「1日かなしみにおおわれる」――。音輝さんと別れた翌日にはこう書かれ、以降の記述は途絶えた。