転覆事故が起きたとみられる現場付近=14日午前11時21分、松江市美保関町の美保関灯台沖、奥平真也撮影
荒れる日本海で、何が起きたのか。曳航(えいこう)されていた田後(たじり)漁協(鳥取県岩美町)所属の底引き網漁船・大福丸(沖島保司船長)が14日に転覆し、乗組員9人が行方不明になった事故。1人が亡くなったなか、地元の漁協関係者らは安否を気遣いながら対応に追われた。
松江沖で9人乗り漁船転覆、1人死亡 不具合でえい航中
■漁協、安否気遣う
大福丸が所属する鳥取県岩美町の田後漁協では、職員たちが情報の収集に追われた。漁協によると、大福丸を曳航していた第2共福丸の乗組員から転覆の情報が入ったのは午前5時半ごろ。隠岐諸島沖での操業を終えた大福丸が帰港する予定だった境漁港(鳥取県境港市)に、田渕幸一組合長らが急きょ向かった。
田後漁協に所属する底引き網漁船は9隻で、建造約30年の大福丸は大型船の中では小さいほうという。漁協の船木祥一常務(73)によると、大福丸の沖島船長は高校卒業後から地元で底引き網漁船に乗るベテラン。船木常務は「温厚で仕事熱心。無事でいてほしい」と話した。
陸上からも行方不明者を捜すため、田後漁協では午前11時45分過ぎに組合員約20人がバスに乗り込み、境漁港に向かった。
「こんなに荒れたのは、この冬初めて」。大福丸の転覆現場から1・6キロほど離れた美保関灯台の横で飲食店を経営する男性(77)は言う。付近は横殴りの雨を伴う強風が吹き、海面には白い波が立つ。海上保安庁の巡視艇とヘリコプターが捜索にあたるなか、男性は「心配です。無事に戻ってきてほしい」と語った。
■ズワイガニ漁、最盛期
島根県の隠岐諸島周辺では今年、ズワイガニ漁が11月6日に解禁された。年末年始を控えた12月中旬は値上がりが期待できることもあり、カニ漁の最盛期を迎えている。
鳥取県水産課によると、県内のカニ漁は岩美町の田後と網代、鳥取市の賀露を母港とする2漁協が手がけており、漁船は計25隻。転覆した大福丸など9隻が所属する田後漁協は、山陰最大級の鳥取県・境漁港を前線基地にしている。
鳥取県漁協網代港支所によると、県内の漁船は3日ほど漁を続けた後、水揚げのため帰港している。13日は同支所所属の漁船10隻が出漁していたが、悪天候の連絡が入っていたという。
東側に位置する兵庫県香美町の但馬漁協に所属する漁船も漁解禁以降、隠岐諸島周辺で操業。この時期は出港すると約1週間は戻らずに漁を続けることが多いという。
同漁協によると、近年は隠岐諸島周辺でカニ漁獲量が減少。人気の高まりに伴う乱獲などが背景にあるとみられ、特に今年は12月に入り天候不良でしけのため漁ができない日が続いていたという。同漁協職員は「ニュースで事故について知ったばかり。状況はよく分からない」と話した。
一方、鳥取港近くで海産物を販売する「中村商店かろいち店」の中村宏司店長(45)によると、今季は高値で推移しており、例年は1キロ前後のものは1万5千円ほどだが、今年は2万円以上。不漁が影響しているといい、漁船の1回あたりの漁期も数日延び、「供給が間に合っていない」という。
中村店長によると、近年は正月に大人数で親戚や家族が集まる機会が減っているためか、高額なカニは売れない傾向にあるという。ここ数年で香港をはじめ外国人の観光客も訪れるようになったが、「爆買い」は期待したほどではなく、むしろ夏場の岩ガキの方が人気だという。中村店長は「少しでも水揚げ量が増え、買い求めやすい価格になって欲しい」と話す。
◇
■大福丸の乗組員 ※境海上保安部発表
船 長 沖島保司さん (53) 鳥取県岩美町
機関長 吉田靖さん (59) 同
機関員 木下浩さん (39) 同
同 阪本誠さん (36) 兵庫県新温泉町
甲板員 坂本孝裕さん (54) 鳥取県琴浦町
同 吉本憲治さん (59) 岩美町
同 杉浦正樹さん (28) 鳥取市
同 ウィ・ヤントさん(21) インドネシア国籍
同 檜木賢一さん (45) 島根県出雲市
■最近の漁船転覆事故
2014年12月 島根県浜田市沖で巻き網漁船が転覆・沈没。4人が死亡、1人が行方不明に
15年2月 松江市の岩場で転覆した漁船が見つかり、船長が3日後に遺体で発見
15年8月 和歌山県美浜町沖で底引き網漁船がタンカーと衝突して転覆。2人死傷
15年9月 長崎県対馬市沖でイカ釣り漁船5隻が転覆。3隻の5人が亡くなる
16年11月 岩手県久慈市沖でサケの定置網漁をしていた漁船が転覆、1人死亡