二十歳(はたち)の男性が、昨年1年間、自らの出自を探し求め、歩いた。特別養子縁組によって育てられ、数年前にそのことを知って以来、ずっと思っていた。「生みの親を知りたい」
男性は、見知らぬ海辺の町を歩いていた。5月。住んでいる所から100キロ以上離れており、バスを乗り継いで来た。「○○さんという女性はいませんでしたか」。尋ねて回ると、その姓は地域にたくさんあるとわかった。「自分のルーツはここだ」と確信した。
男性は、西日本で一人っ子として育てられた。両親が実の親ではない、と知ったのは17歳のとき。父が怒った拍子に口にした。
それまで疑ったことはなかったが「ストンと腑(ふ)に落ちた」。母が母子手帳を見せたがらない、父の不審な態度……。小さな疑問が解けた気がした。「跡継ぎが欲しかった」と父は特別養子縁組した理由を話した。
「別の親から生まれたという事実を隠すことは、ありのままの僕自身を否定すること」。養父母への不信が膨らんだ。一方で、生みの親のことを知りたいと強く思った。
夜中にこっそり母子手帳を探した。名字部分が修正液の上に書かれていた。ライトを裏から当てると、別の名字が浮かび上がった。
翌年、進学して一人暮らしを始めた。生みの親のことが頭から離れなかった。なぜ自分を育てられなかったのか。お金がなかったのか。若すぎたのか。行き着く答えはいつも同じ。「自分が生まれたせいで、母の人生が大変になったのかもしれない」
昨年になって、特別養子縁組でも戸籍をたどれば出自を知ることができると知った。すぐ戸籍謄本を取った。従前戸籍の欄に、見たことのない住所があった。
その海辺の地を訪ねたのは3カ…