20日、ワシントンの米議会議事堂前の就任式の会場に到着し、群衆に手を振るトランプ新大統領(右)。中央はメラニア夫人、左端はペンス新副大統領=AFP時事
トランプ新大統領の就任式で、新ファーストレディーのメラニア夫人が身にまとったのは、米国の大御所ラルフ・ローレンがデザインしたスカイブルーのジャケットとドレスだった。上品な立ち襟で長身の体を包む衣装は、彼女がこれまで好んできた1980年代風のボディーコンシャスなスタイルに沿った印象だ。
【タイムライン】トランプ大統領、就任式ドキュメント
特集・トランプ大統領
ファーストレディーのファッションは世界的に注目の的だ。その着こなしは夫の政治姿勢や、彼を選んだ米国民の民意を反映または先取りしていることも多く、時に流行のリーダーにもなってきたからだ。
しかし今回は、就任式前から米国のファッション界は揺れた。多くのデザイナーが対立候補のヒラリー支持を表明。現地メディアによると、昨年11月、ある女性デザイナーが「人種や性差別の表現、外国人を憎悪する彼女の夫の姿勢は、私たちが大切にする価値観と一致しない」として、メラニア夫人に自分の服を着て欲しくないと発言。これにマーク・ジェイコブスら米国の人気デザイナーらが次々に賛同した。トム・フォードはテレビ番組で「数年前に(夫人からの)衣装の提供依頼を断った」と明かし、「彼女は必ずしも、僕のイメージではなかった」と語り話題になった。
一方、トミー・フィルフィガーらは「着てもらえるのは名誉なこと」と発言。米ファッションデザイナーズ協議会のダイアン・フォン・ファステンバーグ会長は「メラニアも歴代の大統領夫人と同様、尊敬を得るべきだ」と中立の立場を表明した。そんな米国の状況に、フランスの重鎮ジャンポール・ゴルチエは「議論は意味がない。彼女は上手に服を着ている」と擁護した。
メラニア夫人のファッションが論争を呼ぶのは、ミシェル・オバマ前大統領夫人のスタイルが強い印象を残したせいもあるだろう。2009年の就任式後の舞踏会で、当時まだ無名だった台湾出身のジェイソン・ウーのドレスを着た。その後も米国の若手や非白人系のブランドの服を多く着用し、ギャップなど安価な大衆ブランドもセンスよく取り込んで、多くの女性たちの共感を呼んだ。オバマ前大統領が目指した寛容や多様性の尊重といった価値観をファッションでも体現していたからだ。
一方、メラニア夫人だけでなく、自らアパレルブランドも手掛ける娘のイバンカさんも同様のボディコンスタイルを好んできた。どちらも長身でロングヘア、この格好がよく似合う。
ファッション界では近年、反グローバル化の動きや多様化する社会を背景に、シンプルで実用的な「ノームコア(究極の普通)」や、性差のない「ジェンダーレス」のスタイルを打ち出すデザイナーやブランドが多くなっている。
就任演説で「米国を再び偉大に」と高らかにうたったトランプ氏に、80年代風のドレスで寄り添うメラニア夫人。時計を巻き戻すことができるのか。それが果たして米国民の願いなのだろうか。新ファーストレディーの装いの今後が、さらに話題になりそうだ。(編集委員・高橋牧子)