就任演説をするドナルド・トランプ新大統領=20日、ランハム裕子撮影
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ドナルド・トランプ氏の大統領就任演説は、これまでのワシントン政治を批判し、「米国第一」を打ち出す内容となった。選挙期間中の演説と重なる言葉も多い。特徴的なフレーズを読み解いた。
特集・トランプ大統領
【タイムライン】トランプ大統領、就任式ドキュメント
■ヒラリー・クリントン氏に言葉なく
ペンス副大統領と握手するヒラリー・クリントン氏=ロイター
Chief Justice Roberts, President Carter, President Clinton, President Bush, President Obama, fellow Americans, and people of the world: thank you.
トランプ氏は演説の冒頭で、宣誓を執り行ったロバーツ最高裁長官のほか、出席していた大統領経験者のカーター、クリントン、ブッシュ、オバマ各氏に謝意を述べた。しかし、大統領選を自身と争い、元ファーストレディーとして壇上に立っていたヒラリー・クリントン氏には言葉を向けなかった。2001年の就任式でブッシュ氏が、選挙の相手でやはり壇上にいたゴア元副大統領に感謝したのとは対照的だ。
また、ワシントン初代大統領以来、多くの大統領が使ってきた「Fellow Citizens」(我が同胞市民)という言葉を使わず、「世界の人々」に感謝したのも特徴的だった。
■「ワシントン」と「国民」を対比
連邦議会議事堂近くの緑地帯「ナショナル・モール」に集まった人々=ロイター
We are transferring power from Washington D.C. and giving it back to you, the People
トランプ氏は演説で、一貫して「ワシントン」と「アメリカ国民」を対比させ、権力を「国民」に戻すと主張した。レーガン元大統領が1981年の就任式で「あなたたちの夢、あなたたちの希望、あなたたちの目標がこの政権の夢、希望、目標となる」と語った言葉と通じ合う部分があるが、トランプ氏の方が「ワシントン」と「国民」を対立させた。
米メディアによると、トランプ氏は起草にあたって、レーガン氏とケネディ元大統領の就任演説を参考にしていると周囲に語っていた。
■「エスタブリッシュメント」
The establishment protected itself, but not the citizens of our country
「establishment」は昨年の大統領選を象徴する言葉の一つで、「既成勢力」や「既得権益層」などを意味する。トランプ氏は演説でも用いて、こうした層が「自分たちだけを守ってきた」と主張した。
■「忘れられた人たち」
就任式に参加する人たち=ロイター
The forgotten men and women of our country will be forgotten no longer
「忘れられた人たち」は、トランプ氏が昨年7月の共和党大会の指名受諾演説でも使った言葉。その時は「私があなたの声になる」と続けたが、今回は「もう忘れられた存在ではない」と述べた。
■「殺戮の後の惨状」
This American carnage stops right here and stops right now
「carnage」は「殺戮(さつりく)の後の惨状」と言った意味で、「死屍累々(ししるいるい)」に近い。戦場などの表現に使われる極めて強い言葉。トランプ氏は直前に都市部の貧困や、犯罪・麻薬の蔓延(まんえん)に触れ、「悲惨な状況にある米国」を描いた。今回の演説を象徴する言葉として、米メディアも注目している。
■世界各国に向けた宣言
1961年、就任式で演説するケネディ大統領=ロイター
We assembled here today are issuing a new decree to be heard in every city, in every foreign capital, and in every hall of power.
トランプ氏は「すべての都市、すべての外国の首都、すべての権力の廊下」に向けて、「新しい宣言をする」と述べた。米メディアの間では、ケネディ氏が1961年の就任演説で「今この時、この場所から、友人に対しても敵に対しても、次の言葉を伝えよう」と語った部分と似ているとの指摘が出ている。ただ、ケネディ氏は「新しい世代にたいまつが継がれた」と続け、世界各国で人権を守ると語ったのに対し、トランプ氏の宣言は「今後は米国第一だけだ」だった。
■強調してきた「米国第一」
宣誓を終えて演説するトランプ大統領=ロイター
From this day forward, it's going to be only America First, America First
「米国第一」は、選挙期間中からトランプ氏が強調してきた。歴史的には、第2次世界大戦の前に孤立主義を唱え、「米国が欧州の戦争に加わるべきではない」などと主張したチャールズ・リンドバーグ氏らが使った言葉。差別に通じるなどとして、ユダヤ系団体が使わないよう求めてきたが、就任演説でも中心的な言葉となった。
■「他国が米国を荒し侵害」
We must protect our borders from the ravages of other countries
「ravages」は他国が米国を荒らし、侵害しているという意味。「carnage」と並んで、米国が悲惨な状況に陥っていると強調するフレーズだった。
■「模範として照る」
1981年、パレードするレーガン大統領(左)=ロイター
shine as an example. We will shine for everyone to follow
トランプ氏が他国に向けて「模範として照る」と語った部分も、レーガン氏の1981年の「我が国は再び自由の模範となり、自由を得ていない人々にとって希望の灯となる」という言葉と重なる。
■「過激なイスラム教のテロ」
unite the civilized world against radical Islamic terrorism, which we will eradicate from the face of the Earth
トランプ氏は以前から、オバマ氏が「Radical Islamic Terrorism(過激なイスラム教のテロ)」という言葉を使わないと批判し、テロが続く一因となっていると主張してきた。就任演説ではあえてこの言葉を使い、「地球上から撲滅する」と宣言した。
■聖書からの引用
20日、ワシントンの米連邦議会議事堂前での就任式で宣誓するトランプ新大統領(左)=AP
how good and pleasant it is when God's people live together in unity
旧約聖書詩編133からの引用。「見よ、兄弟が共に座っている。なんという恵み、なんという喜び」(日本聖書協会訳)
■「言葉だけで行動がない」
宣誓を終えて演説するトランプ大統領=ロイター
politicians who are all talk and no action, constantly complaining, but never doing anything about it
トランプ氏は就任式を前に、公民権運動の英雄であるジョン・ルイス下院議員から「正統な大統領と思っていない」と批判された際、「言葉だけで行動が伴わない」と返していた。演説でも同じフレーズを使い、「何もしない政治家」は必要ないと訴えた
■「同じ赤い血が流れる」
拍手を受けるトランプ大統領=ロイター
whether we are black or brown or white, we all bleed the same red blood of patriots
トランプ氏は演説の中で「愛国主義に心を開けば、偏見の場所は残らない」とも述べ、「米国民」としてまとまることの大切さを説いた。ここでは人種問題に触れ、肌の色が異なっても「愛国者の同じ赤い血が流れる」と語った。
■「アメリカを再び裕福にする」
就任演説後、観衆に向かって「ありがとう」と言うドナルド・トランプ新大統領=20日、ワシントン、ランハム裕子撮影
We will make America strong again. We will make America wealthy again. We will make America proud again. We will make America safe again. And yes, together we will make America great again
選挙スローガンの「アメリカを再び偉大にする」で演説を締めくくるのは、昨年7月の党大会とほぼ同じだった。就任演説では「アメリカを再び裕福にする」という一文が加わった。