1~4号機を見渡せる高台から取材をする記者団。80メートルほど先に1号機(左)と2号機がある=9日、東京電力福島第一原発、日本記者クラブ取材団代表撮影
東京電力福島第一原発事故からもうすぐ6年。廃炉に向けた作業が続く原発は今、どうなっているのか。初めて構内に入った記者が、見たもの、感じたものを、伝える。
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2月上旬、日本記者クラブの取材団の一員として構内に入った。
私がまず驚いたのは、放射性物質を体に付着させないための対策や、チェックの多さだ。内部被曝(ひばく)を調べる装置「ホールボディーカウンター」を使った測定は、構内に入った時と出た時の両方に受けた。加えて、「ゲートモニター」と呼ばれる装置で2回、手作業で1回、放射性物質が体についていないかを調べられた。靴底の汚染を防ぐためのビニールのカバーは、建物間を行き来する際などに、10回近くも脱いだりはいたりした。
入念な対策に不安が募る中、バスで構内を移動。事故を起こした1~4号機を見渡せる高台に着いた。水素爆発で建屋上部が吹き飛んだ1号機からは約80メートルの距離だ。ここでバスから降りた。
「(毎時)112(マイクロシーベルト)、120、130……」。東電の担当者が線量計を読み上げ始めると、取材団の記者たちの質問は一斉に止まった。構内の他の場所では、線量計の値が毎時0.0007ミリシーベルト程度だったのがみるみる上昇し、毎時0.143ミリシーベルト(毎時143マイクロシーベルト)に。約7時間とどまると、一般の人が年間に浴びる限度の1ミリシーベルトに達するレベルだ。水素爆発を起こした3号機の近くをバスで通過した際には、毎時0.335ミリシーベルトを計測。私はとても緊張した。
構内での約70分間の取材が終わり、私が持っていた個人線量計の値は、歯のX線撮影2回分に相当する0.02ミリシーベルトだった。「最大0.1ミリシーベルトの被曝(ひばく)の可能性がある」と事前に聞いていたが、正直ホッとした。
構内での被曝(ひばく)をここまで抑えられたのは、放射性物質の飛散を防ぐため、構内の地表をモルタルで覆う作業が進んだからだ。装備も軽く、原発の敷地内といえば、全面マスクや全身を覆う防護服をイメージしていたが、実際は口と鼻を覆うだけのマスクやヘルメット、軍手だった。拍子抜けした。東電によると、このような軽装備で作業できる場所は昨年3月に敷地全体の9割に達したという。
作業現場以外の環境改善も進んでいた。約2年前にオープンした1200人を収容できる大型休憩所。300席近くある食事スペースは午前10時半には約3分の1が埋まっていた。天候が安定している早朝に開始する作業があるからだという。この日のおすすめは「和風ポークソテーおろしソース定食」。濃い味付けなのが人気の秘密だという。メニューは日替わりで一律380円だ。
1年前にはコンビニエンスストア「ローソン東電福島大型休憩所店」も開店した。約60平方メートルの店内には約1千点の商品が並ぶ。ローソン特製のシュークリームが東北で一番の売り上げになったことがあるという。案内担当の職員は「疲れて甘いものがほしくなるのでしょうか」と話す。
原発の内田俊志(しゅんじ)所長は取材団向けの記者会見で「この1年間で最も進んだ点」として、敷地内での軽装化をあげた。熱中症が2015年の12件から昨年は4件に減少。「労働環境が改善された」と胸を張った。一方、溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しや壊れた原子炉から出る汚染水の処理など、難題は山積している。「廃炉まで何合目か」との質問に、「これまでは汚染水対策など廃炉に直接関係ないところを一生懸命やってきた。山を登り始めたところだ」と厳しい表情で答えた。(山本晋)