将棋会館に到着した加藤一二三九段=2日午前、東京都渋谷区、竹花徹朗撮影
日本将棋連盟の史上最年長棋士、加藤一二三(ひふみ)九段(77)の現役最後となる「順位戦」の対局が2日、東京都渋谷区の将棋会館で始まった。順位戦は五つのクラスに分かれており、ここでの成績が棋士の格を決める。加藤九段はデビューして約63年。数々の記録を打ち立ててきた名棋士が、棋士人生の大きな節目を迎えている。
特集:ひふみん、順位戦最後の日
加藤九段は午前10時前、口を真一文字に結び、気合十分の様子で将棋会館に現れた。約20分後、第75期将棋名人戦・C級2組順位戦(朝日新聞社、毎日新聞社主催)の最終11回戦が一斉に始まった。加藤九段の作戦は十八番の「相矢倉」だった。
加藤九段はこのC級2組での成績がふるわず、規定により引退が決まっている。だが、1月に現役棋士の最年長記録、最年長勝利を達成するなど、棋士人生の最終盤で奮闘する姿がにわかに注目を集めている。最近はテレビのバラエティー番組にも出演し、「ひふみん」の愛称で人気だ。
対局にまつわる数々の「伝説」でも知られる。例えば、こんな具合だ。
「対局中、おやつにイチゴを1パックとぶどうゼリーを食べた後、夕食でカキフライ定食とチキンカツ定食を注文。対戦相手の若手棋士を仰天させた」
「対局の際、用意されている座布団がモスグリーンのものだと、わざわざ押し入れに出向いて別の色のものと交換する。『将棋は戦いの場。緑は平和の色なので、闘志が減る気がする』からだという」
この他、対局中、自分の残り時間を「あと何分」と記録係に繰り返し尋ねることでも有名。今日の対局でも、残り時間が少なくなってくる夜になると、その場面が見られそうだ。
加藤九段は1954年に14歳でプロ入り。名人への挑戦権を争うA級順位戦に18歳で参加し、20歳で名人に挑戦した。A級と名人挑戦の最年少記録は今も破られていない。
82年、42歳で念願の名人を獲得。62歳の時までA級に在籍したが、その後は徐々にクラスが下がっていった。今期もここまで1勝8敗。参加する51人のうち下位10人となってC級2組からの陥落が確定したため、引退が決まっている。5月ごろまでは対局の予定があり、しばらく現役は続けられる。(村瀬信也)