リビングで長男に話しかける夫妻=大阪府内、伊藤進之介撮影
大阪府内の住宅街に、夫(39)と妻(38)が暮らす家がある。リビングのゆりかごで、昨年生まれた長男が眠る。流産や死産を繰り返す「不育症」に悩みながら、7回目の妊娠で授かった子だ。
2009年に結婚。3カ月後、妊娠検査薬に反応があったが、受診する前に生理が訪れた。それが3回続き、4回目に初めて胎児の心拍が確認できたものの、流産した。
検査をして、胎児の染色体異常が原因ではないとわかった。医師の勧めで受診した専門の病院でも、原因は分からなかった。胎盤の血流が悪かった可能性があると指摘を受け、不育症と診断された。
不育症は両親の染色体や免疫の異常による場合もあるが、半数は原因不明という。妻は処方された血流を改善するためのアスピリンと、漢方薬を飲み始めた。
その後も流産し、14年5月に妊娠したときは、継続する可能性を高めるため、薬の種類を増やした。初めて妊娠12週を超え、うれしさと同時に育った子どもを失うかもしれないと、不安が膨らんだ。
それからしばらくして、妻の体調が激変した。嘔吐(おうと)を繰り返し、顔や体が見るからにむくみ始めた。病院に駆け込むと、血圧が急激に上がっていた。母子の命が危ないと、大学病院に救急搬送された。妊娠高血圧腎症だった。
急きょ入った分娩(ぶんべん)室は、強い光で症状が悪化しないよう、豆電球ほどの黄色い明かりがわずかにともっていた。産科と腎臓内科の医師が、妊娠をやめれば症状が改善するかもしれないと告げた。中絶の同意書を手渡され、夫妻は無言で署名した。
中絶手術は2日後だった。「生…