櫻田宏一・東京医科歯科大学教授
1995年に東京都内の地下鉄にサリンがまかれた事件をきっかけに、サリン中毒の解毒剤の研究を続けてきた東京医科歯科大と警察庁科学警察研究所のグループが、従来より効果の高い解毒剤の開発につながる化合物を発見した。ラットを使った実験で、脳機能を回復させる高い効果が確認されたという。今後、人への効果を確認していく。
オウム真理教が起こした地下鉄サリン事件では13人が死亡し、6千人以上が負傷した。同大の櫻田宏一教授(54)は、科警研に所属していた2001年から、解毒剤の研究を続けてきた。櫻田教授によると、サリンなどの神経ガスは、脳内で神経伝達機能を助ける酵素の働きを邪魔するため、呼吸困難やけいれんなどを引き起こす。解毒剤はこの酵素の働きを回復させるものだが、脳を守る「血液脳関門」を通過する解毒剤の開発が課題だった。
櫻田教授と科警研の太田彦人化学第二研究室長らの研究グループは、40種類以上の解毒剤の候補から「4―PAO」と呼ばれる化合物の合成に成功。地下鉄サリン事件当時から今も使われている解毒剤では、ラットの血液から脳への通過率は10%以下だったが、この化合物では30%程度まで上昇した。ラットをサリン中毒にして脳内の酵素の働きを観察すると、7割程度まで回復したという。
研究グループは今後、人への有効性について研究を進める。すでに後遺症がある人を治療することはできないが、櫻田教授は「地下鉄サリン事件当時は有効な解毒剤がなく、後遺症に長く苦しむ人が出た。その教訓を生かしたい」と話す。(志村英司)